コメディ・フランセーズ

コメディ・フランセーズ：フランス演劇の輝ける歴史

コメディ・フランセーズは、1680年にルイ14世によって設立された、フランスを代表する国立劇団です。パリのパレ・ロワイヤルにある劇場を本拠地とし、その歴史は、フランス演劇そのものの発展と深く関わっています。当初は王立劇団として、後に国立劇団へとその地位を確立しました。現在では、パレ・ロワイヤルにある本拠地の他に、ヴュー・コロンビエ劇場とステュディオ劇場という2つの劇場も運営しています。

誕生と初期の活躍

コメディ・フランセーズの設立は、パリのゲネゴー劇団とブルゴーニュ劇団の統合によって実現しました。ゲネゴー劇団は喜劇、特にモリエールを代表とする喜劇に強みを持ち、ブルゴーニュ劇団は悲劇を得意としていました。この両劇団の統合によって、喜劇と悲劇の両方を上演できる劇団が誕生しました。これは、当時パリで人気を博していたイタリア人俳優のコメディ＝イタリエンヌ劇団に対抗する意味合いもあったと言われています。

初期には、ラシーヌ、ボーマルシェといった巨匠の戯曲が上演され、大きな成功を収めました。特に、ボーマルシェの『セヴィリアの理髪師』や『フィガロの結婚』は、コメディ・フランセーズを代表する作品として知られています。

激動の時代と劇団の変遷

フランス革命という激動の時代の中、コメディ・フランセーズも様々な変化を経験しました。劇団名は一時「国民劇場」などに変更され、革命派の離脱や劇場の閉鎖、再編などを経て、現在の体制へと落ち着きました。ナポレオン時代には「モスクワ勅令」によって帝室支配が確認され、ブルボン朝復古後も、演目の勅許独占権を失いながらも、他の劇団と競争しながら活動を続けました。

1830年には、ユーゴーの『エルナニ』初演を巡る「エルナニ事件」が、ロマン主義の隆盛のきっかけとなりました。サラ・ベルナールといった名優も在籍し、フランス演劇史に大きな足跡を残しました。普仏戦争やパリ・コミューンといった混乱期には、劇場が救急病院として使用されたり、ロンドンへ巡業に出るなど、困難を乗り越えながら活動を続けました。

20世紀に入ると、第一次世界大戦の影響で一時休場するなど、再び困難な時代を経験しますが、1930年代には民間の劇団人エドゥアール・ブールデが支配人となり、古典劇の新演出を積極的に行うなど、新たな時代を切り開いていきました。第二次世界大戦中も、占領下での活動、パリ解放後の看護施設設置など、激動の時代を乗り越えてきました。

劇場の移転と発展

コメディ・フランセーズの歴史において、劇場の移転も大きな出来事です。ゲネゴー劇場、ジュ・ド・ポーム球技場、サル・デ・マシーヌ、オデオン座と、数々の劇場を本拠地としてきました。現在の本拠地であるパレ・ロワイヤルにあるリシュリュー館は、1799年から使用されています。1988年にはヴィユ・コロンビエ劇場を第2劇場、1993年にはステュディオ劇場を第3劇場として、現代劇の上演にも力を注いでいます。

レパートリーと著名な劇作家

コメディ・フランセーズのレパートリーは、約3000作品に及びます。モリエール、ラシーヌ、コルネイユといった古典劇から、現代劇まで、幅広い作品が上演されています。シェイクスピア、ドストエフスキー、チェーホフといった外国の劇作家の作品も上演されており、そのレパートリーの豊富さは、コメディ・フランセーズの大きな特徴の一つです。

近代以降の劇作家

1800年以降の上演作品には、アレクサンドル・デュマ・ペール、ゴンクール兄弟、アンリ・ベック、ストリンドベリといった数多くの著名な劇作家が名を連ねています。20世紀に入ると、イヨネスコ、アヌイ、ブレヒトといった、現代演劇を代表する劇作家たちの作品も上演されるようになりました。

女性初の支配人

2006年には、コメディ・フランセーズ初の女性支配人として、女優出身のミュリエル・マイエットが就任しました。これは、コメディ・フランセーズの歴史において、大きな転換点となりました。

評価と影響

コメディ・フランセーズは、フランス演劇のみならず、世界演劇史においても重要な位置を占めています。その高い芸術性と伝統は、多くの観客や演劇人を魅了し続けています。三島由紀夫も、その舞台美術を絶賛しています。

参考文献

パトリック・ドゥヴォー（伊藤洋訳）、コメディ＝フランセーズ、文庫クセジュQ772、白水社（1995）
渡辺淳：パリ･開幕 劇場・映画館探訪、丸善ブックス072、丸善（株）（1998）

関連作品

1996年には、フレデリック・ワイズマン監督によるドキュメンタリー映画『コメディ・フランセーズ 演じられた愛』が制作・公開されました。

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