コモンシギ

コモンシギ（小紋鴫）

コモンシギ (Calidris subruficollis) は、鳥類分類においてチドリ目に属し、さらにシギ科の一員として位置づけられています。以前は独立したコモンシギ属 (Tryngites) に分類されていましたが、近年の詳細な分子生物学的研究などに基づき、より広義のオバシギ属 (Calidris) に含められることになりました。これは、鳥類の分類体系が科学的な知見の蓄積によって常に更新され続けていることを示す事例の一つです。

分布

この鳥の主な生息域は、北米大陸の広大な地域に広がっています。繁殖期を迎える夏季には、カナダ北部やアラスカといった北極圏のツンドラ地帯で過ごし、そこで営巣・子育てを行います。繁殖期が終わると、彼らは南半球へと長距離の渡りを行い、冬季には南米大陸の南部、特にアルゼンチンの草原地帯などで越冬します。このように、繁殖地と越冬地の間を毎年往復する典型的な渡り鳥です。

日本においては、本来の定期的な渡りルートから大きく外れて飛来する迷鳥として、稀に姿が確認されています。これまでに、北海道、本州各地、そして南西諸島の奄美大島など、比較的広い範囲で記録があります。コモンシギは通常、繁殖期以外は小さな群れを形成して行動することが多いのですが、日本で観察される個体は、なぜか単独で飛来している場合がほとんどであるという特徴が報告されています。

形態

成鳥の全長は、およそ20センチメートル程度と比較的小型のシギです。体の色彩には特徴があり、頭部から頸にかけての部分は、明るい黄褐色の地色に細かい黒い斑点が密に散りばめられた、小紋のような模様を呈しています。この模様が和名の由来にもなっています。背中から翼、そして尾羽にかけての上半身は、やや濃い黒褐色を基調とした羽色をしています。一方、体の下面は淡い黄褐色で、胸から腹部にかけては模様がなく、比較的すっきりとした印象です。全体の姿や特に若鳥の羽色は、よく知られたエリマキシギに一見よく似ているため、識別の際には注意が必要となります。

生態

コモンシギは、水辺や湿地環境を好んで生息しています。具体的には、淡水と海水が混じり合う汽水湖の周辺、潮の満ち引きによって陸地が現れる干潟、あるいは水田や河川の河口域など、多様な環境で観察されます。これらの場所で、彼らは地面や泥の中を嘴で探りながら餌を探します。主な食料としては、小型の貝類や甲殻類、環形動物の一種であるゴカイなど、水辺に生息する様々な無脊椎動物を捕食しています。

鳴き声にも独特の特徴があります。彼らの声は「プリリリリ」といった連続音として表現されることが多く、この独特な鳴き方は、姿が似ているエリマキシギとの識別の重要な手がかりの一つとなります。エリマキシギは通常繁殖期以外はほとんど鳴かないこと、鳴き声も異なることから、声による識別は特に役立ちます。

コモンシギは、広大な大陸間を移動する渡りの能力を持ちながら、日本では珍しい出会いをもたらしてくれる鳥として、バードウォッチャーにとって興味深い存在です。その独特な模様や生態を知ることで、水辺の鳥たちへの理解がさらに深まるでしょう。

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