エリマキシギ

エリマキシギ（学名：Calidris pugnax）は、チドリ目に属するシギ科の鳥類です。この鳥は、特に繁殖期を迎えたオスが首の周りに発達させる、襟巻きのような飾り羽からその名がつけられました。分類の見直しが進む中で、かつてはエリマキシギ属（Philomachus）に分類されていましたが、近年における分子生物学的な研究などに基づき、現在はオバシギ属（Calidris）に含められています。

生息地と季節移動

エリマキシギの主な繁殖地は、ユーラシア大陸の北部から北極圏にかけて広がる湿地帯や牧草地です。ロシアの中部地域でも一部で繁殖が確認されています。繁殖期が終わると、彼らは冬を越すために南へと長い渡りを行います。主な越冬地は、地中海沿岸の国々、アフリカ大陸、インド、そして遠くオーストラリアの南部地域に及びます。このように、季節によって生息地を大きく変える渡り鳥です。

日本列島は、エリマキシギが繁殖地と越冬地の間を移動する際の重要な通過点となっています。そのため、主に春の北上時と秋の南下時に「旅鳥」として飛来し、比較的少数が観察されます。ただし、本州より西の地域では、ごく稀に冬の間も滞留し、越冬する個体が見られることがあります。日本で観察される機会が多いのは、地味な灰褐色の冬羽の個体ですが、春の渡りの時期には、繁殖期に備えてオスの首に飾り羽（襟巻き）が生え始めている様子を観察できることもあります。

形態の特徴

エリマキシギは、性別による体の大きさの違いが明瞭です。オスの体長がおよそ29センチメートルであるのに対し、メスは約22センチメートルと、メスの方がかなり小柄です。全体的に他のシギ類と比べて、首がやや長めに見え、くちばしは比較的短い傾向にあります。

羽色は季節や性別によって大きく変化します。メスの夏羽や、雌雄両方の冬羽は、黒っぽい褐色に淡い褐色の斑模様が混ざった、地味で目立たない色合いをしています。これは周囲の環境に溶け込みやすく、身を守るのに役立っています。一方、オスの繁殖期の羽色は非常に特徴的で多様です。この時期に最も目を引くのは、首の周りに発達する長く豪華な飾り羽、すなわち「襟巻き」です。この襟巻きの色やパターンは個体ごとに異なり、黒、白、様々な濃淡の褐色などが組み合わさって、非常に個性的です。また、体の他の部分の羽色も、繁殖期には変化します。

興味深いことに、繁殖期のオスの中には、この特徴的な襟巻きを持たず、見た目がメスとほとんど見分けがつかない個体も存在し、これはオス全体の約1パーセント程度を占めると言われています。エリマキシギの英名である「Ruff」も、「襞襟（ひだえり）」、つまり首周りの飾りを意味しており、この鳥の最も顕著な形態的特徴に由来しています。

生態と行動

エリマキシギの繁殖期における行動で特筆すべきは、オスが集まって求愛ディスプレイを行うことです。オスたちは繁殖地の中に設けた特定の求愛場所、「レック（lek）」と呼ばれる場所に集まります。レックでは、複数のオスが互いに距離を取りつつ、自慢の襟巻きを広げたり、様々な姿勢をとったりして、メスに対して激しいアピール合戦を繰り広げます。この求愛行動は非常に情熱的で、オス同士の間で競争が繰り広げられます。

しかし、繁殖における役割分担は明確で、子育てはメスが単独で行います。メスは卵を産み、抱卵し、雛が孵った後も、雛に餌を与えたり保護したりといった育雛の全てを担います。

日本に渡来した際のエリマキシギは、主に干潟や、稲刈りが終わった後の田んぼ（休耕田）などで見られます。これらの場所で地面を歩き回りながら餌を探します。彼らの食性は主に動物質で、水辺や泥の中に生息する甲殻類やゴカイ、あるいは様々な種類の昆虫などを捕食して生活しています。

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