コルホーズ

コルホーズ：ソ連農業集団化の象徴とその後

コルホーズとは、ソビエト連邦において実施された農業集団化政策の中核を担った集団農場です。ロシア語で「колхоз (kolkhoz)」は「kollektivnoe khozyaystvo（共同経営）」の略語であり、国営農場であるソフホーズとは異なり、名目上は農民による部分的個人所有を認めていました。しかし、その実態は、スターリン体制下の強制的な集団化政策によって形成されたものでした。

集団化政策の背景と推進

1928年の第一次五ヶ年計画において、ソ連政府は農業集団化を最重要課題として掲げました。新経済政策（ネップ）下で復活した農産物の自由売買を抑制し、農業生産を国家管理下に置くことを目的としていました。この政策は、急速な集団化キャンペーンとして全国的に展開されました。多くの農民が抵抗を示し、反乱や騒擾が発生しましたが、ソ連政府は弾圧によってこれを鎮圧。結果として、コルホーズはソフホーズと共にソ連農業の基盤となりました。

スターリン体制下での強制化とクラーク弾圧

スターリン政権は、農業集団化を推進する過程で、富農である「クラーク」を徹底的に弾圧しました。彼らは集団化に抵抗する勢力と見なされ、強制収容所（グラグ）への送還や処刑といった厳しい弾圧を受けました。穀物の強制徴発も強化され、結果として1932年から1934年にかけてウクライナを中心に大飢饉（ホロドモール）が発生し、数百万人の犠牲者を出しました。この飢饉は、意図的なジェノサイドであったとする見方も存在します。

コルホーズの運営と生産性

コルホーズは、集団で農作業を行い、生産物の一部を個人で消費し、残りを国家に納めるという仕組みでした。模範的な労働者は「突撃作業員」と呼ばれ、生産高向上に貢献した者や、集団化政策に協力的な農民が称賛されました。しかし、生産性の向上は容易ではなく、集団化による効率の低下や、農民の意欲減退が問題となりました。機械化を進めるために、機械・トラクター・ステーション（MTS）が設置されましたが、十分な効果は得られませんでした。

西洋史学とソ連史学における異なる解釈

コルホーズへの移行原因については、西洋史学とソ連史学で異なる解釈がなされています。西洋史学では、ネップ期に拡大した工業製品と農産物の価格差が、農民の不満と抵抗を生み出したと指摘します。一方、ソ連史学では、帝政時代の借金問題や外国資本流入の不足による工業発展の遅れを原因に挙げています。いずれにしても、この価格差は農民の工業製品への需要を高め、農産物価格の高騰を招き、結果として食糧不足を招いたのです。

東欧諸国への影響とソ連崩壊後

第二次世界大戦後、ソ連の支配下に入った東欧諸国でも、ポーランドを除き、コルホーズと同様の集団農場が導入されました。しかし、工業化や流通の非効率性から、ソ連国民の食糧自給は困難であり続けました。

1991年のソ連崩壊後、コルホーズの存在意義は問われ、多くの国で解体されました。ウクライナなどでは、自営農民の復活が進みましたが、ロシアなどでは、共同体意識の強さから、形を変えて維持されている例もあります。現在でも、ロシアやウクライナでは、コルホーズの名を冠した農業企業が農産物の生産に携わっていますが、その数は減少しています。

結論

コルホーズは、ソ連の農業政策を象徴する制度であり、その導入と運用は、強制的な集団化、クラーク弾圧、大飢饉といった悲劇的な出来事と深く結びついています。ソ連崩壊後も、その影響は現在まで続いており、ロシアや周辺諸国の農業構造に影響を与え続けています。コルホーズの遺産は、ソ連社会主義の成功と失敗の両面を物語る複雑なものです。

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