コロポンのニカンドロス

コロポンのニカンドロス：古代ギリシアの教訓詩人

コロポンのニカンドロス（紀元前2世紀頃）は、ヘレニズム時代のギリシアを代表する詩人、文法家、医学者です。彼は、小アジアのコロポン近郊のクラロス出身で、アポロン神官の家系に生まれたとされています。主に教訓詩と呼ばれるジャンルで活躍し、その作品は後世の文学や医学に大きな影響を与えました。

生涯

ニカンドロスは、クラロスで伝統的にアポロン神官職を務める一族の出身でした。ペルガモンのアッタロス朝の王、アッタロス3世のもとで活躍し、多くの作品を著しました。現存する作品は、『有毒生物誌』（Theriaka）と『毒物誌』（Alexipharmaka）の2つのみです。

同時代の詩人アラトスとは友人関係にありましたが、同名の詩人が存在したため、ニカンドロスの生涯に関する伝承は錯綜しています。現在では、彼が生きた時代は紀元前2世紀頃で、シケリア出身の牧歌詩人モスコスとほぼ同時代であろうと推定されています。出身地がクラロスであることは、『有毒生物誌』と『毒物誌』の中で自身が言及しています。

作品

ニカンドロスの作品は、技巧的で博識であることが特徴です。特に現存する最長の作品『有毒生物誌』は、ヘビ、クモ、サソリなど、毒を持つ生物の性質や毒の危険性、そして中毒時の対処法を歌った958行の詩です。

もう一つの作品『毒物誌』は、毒を持つ植物、動物、鉱物とその解毒方法を扱った630行の詩です。どちらの作品も六歩格で構成されており、前3世紀頃のアレクサンドリアの学者アポロドロスの著書を情報源にしているとされています。

ニカンドロスの作風は、ホメロスの叙事詩で一度しか使われていない語を多用する点に特徴があります。稀な用語や専門用語に加え、彼自身が作った造語や合成語も多く見られます。これは、カッリマコスの影響を受けたものと考えられており、彼の詩を難解なものにしています。

代表作

有毒生物誌 (Theriaka): 毒を持つ生物とその毒、対処法を扱った詩。
毒物誌 (Alexipharmaka): 毒を持つ植物、動物、鉱物とその解毒方法を扱った詩。
毒蛇誌 (Ophiaka)
農耕詩 (Georgika)
養蜂誌 (Melissourgika)
変身物語 (Heteroiumena)
アイトリア史 (Aitolika)
テーバイ史 (Thebaika)
シケリア史 (Sikelia)
ヨーロッパ史 (Europia)
* キンメリア人 (Kimmerioi)

後世への影響

ニカンドロスの作品は、後世に大きな影響を与えました。特に、失われた作品である『変身物語』は、オウィディウスの『変身物語』に影響を与えたと考えられています。アントニヌス・リベラリスは、『変身物語集』の中でニカンドロスの語った神話エピソードを多く引用しています。

『農耕詩』は、キケロによってアラトスの『星辰譜』とともに特筆されました。また、『農耕詩』と『養蜂誌』は、ウェルギリウスの『農耕詩』に利用されています。その他、アエミリウス・マケルの『テリアカ』や『薬草について』は、ニカンドロスの作品の翻案であると伝えられています。

翻訳

現存する『有毒生物誌』と『毒物誌』は、伊藤照夫によって翻訳され、『ギリシア教訓叙事詩集』として出版されています。

ニカンドロスの作品は、古代ギリシアの文化や医学、そして詩の技巧を知る上で貴重な資料です。彼の作品は、難解ではありますが、その奥深さに触れることで、古代世界への理解を深めることができるでしょう。

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