コローメンスコエ

コローメンスコエ：モスクワの南に広がる歴史と自然の宝庫

モスクワ河畔の高台に位置するコローメンスコエは、ロシアの歴史と文化を肌で感じられる貴重な場所です。モスクワ南東部、コロムナ街道の起点として栄えたこの地は、1339年の史料にその名が初めて登場し、その後、歴代モスクワ大公によって宮殿が建てられてきました。

特筆すべきは、1667年にアレクセイ・ミハイロヴィッチ大公によって建てられた木造離宮です。サッヴァ・デメンチェフによる改修を経て、7つの木造建築と石造りの教会が回廊で繋がれた壮大なものでした。多角尖塔や様々な形状の屋根はロシア建築の特色を凝縮しており、250もの部屋を誇り、釘を使わない建築様式から「世界の8つ目の不思議」と称賛されたとも言われています。ピョートル大帝の娘、エリザヴェータ・ペトローヴナはここで生まれましたが、宮廷がサンクトペテルブルクに移ると次第に衰え、1768年に解体されました。現在、当時の様子を伝える模型が残されており、その復元計画も進められているようです。

コローメンスコエで現存する最古の建造物は、1532年にヴァシリー3世がイワン雷帝の誕生を祝して建造した主の昇天教会（ヴォズネセーニエ教会）です。石と煉瓦の基礎に木造の屋根という、ロシア正教会聖堂の初期の様式を示す貴重な建築物です。特徴的な八角形の屋根は、一般的な玉ねぎ型のクーポラとは異なる点も注目されます。この教会は、1994年にユネスコの世界遺産に登録されました。

1925年には、コローメンスコエはソ連政府によって野外文化財博物館となりました。これにより、歴史的建造物が保護されるだけでなく、ソ連各地から木造建築や石造建築が移築されることとなり、その規模はさらに拡大しました。ブラーツク要塞の塔やニコロ・カレーリスキー修道院の聖門、ピョートル大帝の小屋、プレオブラジェンスキー宮殿の倉庫など、多様な建築物が集まるようになりました。16世紀から18世紀にかけて建造された石造建築は、絵画、彫刻、民芸品などを展示する博物館として活用されています。

世界遺産登録に際しては、1992年に建築、考古、自然地域を一体とした推薦がなされましたが、登録は見送られました。しかし、ロシア最古の石造建築である主の昇天教会の価値が認められ、1994年に単独で世界遺産に登録されました。登録基準は「(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの」です。

コローメンスコエは、単なる歴史的建造物群ではなく、豊かな自然と歴史が調和した、モスクワ郊外を代表する観光地です。モスクワを訪れる際には、ぜひ足を運んで、その魅力を体感してみてください。 周辺には、ツァーリツィノ、クスコヴォ、アルハンゲリスコエなどの歴史的建造物も点在しており、合わせて訪れるのもおすすめです。

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