コンスタンティノープル包囲戦 (717年-718年)

コンスタンティノープル包囲戦（717年-718年）：ビザンツ帝国の命運を分けた戦い

717年から718年にかけて、ウマイヤ朝がビザンツ帝国の首都コンスタンティノープルを包囲した戦いは、帝国の存亡をかけた重要な局面でした。長きにわたる国内の混乱で国力が衰退していたビザンツ帝国に対し、アラブ軍は陸と海から総攻撃を仕掛けました。この包囲戦は、その後の歴史に大きな影響を与えることになります。

背景：帝国の弱体化とアラブの台頭

7世紀以降、イスラム勢力は急速に拡大し、ビザンツ帝国の領土を脅かしていました。674年から678年の第一次コンスタンティノープル包囲戦後も、小規模な戦闘が繰り返され、帝国の国力は徐々に消耗していきました。一方、ウマイヤ朝は内戦を乗り越え、豊富な資源と軍事力を背景に、帝国を滅ぼすべく大規模な侵攻を計画します。

ビザンツ帝国では、ユスティニアノス2世の失脚後、帝位を巡る争いが激化し、政治的な混乱が続いていました。相次ぐクーデターによって帝位が頻繁に交代し、国政は停滞。アラブ軍の侵攻に対する防衛体制も脆弱化していました。

包囲戦の経緯：陸と海からの攻防

716年、ウマイヤ朝の将軍マスラマ・ブン・アブドゥルマリクは、大軍を率いてアナトリア（小アジア）に侵攻しました。当初、アラブ軍はビザンツ帝国の内乱を利用しようと画策し、反乱を起こした将軍レオン（後のレオン3世）と連携を図ります。しかし、レオンはアラブ軍を出し抜き、自ら帝位を奪取することに成功しました。

717年、アラブ軍はコンスタンティノープルに到達し、陸側から都市を包囲しました。巨大なテオドシウスの城壁が立ちはだかり、容易には攻略できません。アラブ艦隊は海から都市の封鎖を試みましたが、ビザンツ帝国海軍が秘密兵器「ギリシアの火」を用いてアラブ艦隊を撃破。これにより、コンスタンティノープルは海からの補給路を維持することができました。

包囲が長引くにつれて、アラブ軍は食糧不足と疫病に苦しめられるようになります。718年の春には、増援として送られたアラブ艦隊もビザンツ海軍によって撃破され、陸路からの援軍も迎撃されました。さらに、背後からブルガリア軍の攻撃を受けたことで、アラブ軍はついに包囲を解くことを決意します。

718年8月15日、アラブ軍はコンスタンティノープルから撤退を開始しました。撤退中も嵐に見舞われ、多くのアラブ艦船が失われました。

包囲戦の結果と影響：歴史の転換点

コンスタンティノープルの防衛成功は、ビザンツ帝国の存続を決定づけました。もしコンスタンティノープルが陥落していれば、イスラム勢力はヨーロッパへと進出し、その後の歴史は大きく変わっていたでしょう。この戦いは、ヨーロッパにおけるイスラム勢力の拡大を食い止め、キリスト教世界の命脈を繋いだという意味で、歴史上非常に重要な戦いの一つとされています。

包囲戦後も、ビザンツ帝国とウマイヤ朝の間では小競り合いが続きましたが、帝国は徐々に国力を回復し、9世紀には反撃を開始します。一方、ウマイヤ朝は内部対立によって衰退し、アッバース朝に取って代わられました。

史料と評価：後世への影響

この包囲戦に関する史料は、ビザンツ側とアラブ側双方に残されていますが、内容には食い違いも見られます。テオファネスの年代記やニケフォロス1世の歴史抄録といったビザンツ側の史料は、レオン3世を英雄として描く傾向があります。一方、アラブ側の史料は、包囲戦の失敗を糊塗しようとする記述も見られます。

歴史家たちは、この包囲戦を世界史における重要な転換点と位置づけています。アラブ軍の侵攻を阻止したことで、ビザンツ帝国は東ヨーロッパにおける防波堤としての役割を果たし、その後のヨーロッパの文化や政治に大きな影響を与えました。

文化的影響：伝説と終末論

アラブ人の間では、この包囲戦は敗北として語り継がれる一方で、様々な伝説も生まれました。マスラマがコンスタンティノープルに象徴的な入城を果たし、レオンから敬意を払われたという話や、コンスタンティノープルにモスクを建設したという伝説などが存在します。

イスラム教徒の間では、コンスタンティノープルの陥落は終末の到来の兆候の一つと信じられるようになり、ビザンツ帝国に対する遠征は宗教的な意味合いを持つようになりました。

コンスタンティノープル包囲戦（717年-718年）は、ビザンツ帝国の存亡をかけた戦いであり、その後の歴史に大きな影響を与えました。この戦いの背景、経緯、そして歴史的意義を理解することは、世界史を深く理解する上で不可欠です。

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