ユスティニアノス2世

ユスティニアノス2世：波乱の生涯と王朝の終焉

ユスティニアノス2世（668年？-711年）は、東ローマ帝国ヘラクレイオス王朝最後の皇帝であり、その生涯は激動と波乱に満ちていました。父コンスタンティノス4世の死後、685年に帝位を継承しましたが、彼の治世は内乱、対外戦争、そして陰謀に彩られ、最終的には王朝の終焉をもたらしました。

初期の治世と対外関係

即位当初、ユスティニアノス2世はウマイヤ朝との間で、複雑な関係を築きました。内乱状態にあったウマイヤ朝に対し、マルダイテス人を利用したゲリラ戦を展開し、キレナイカ地方への奇襲攻撃も成功させました。しかし、688年にはアブドゥルマリクとの間で和睦を結び、マルダイテス人の多くを小アジアへ移住させることとなりました。この和睦により、キプロス島は東ローマ帝国とイスラム勢力の共有地となり、これは10世紀後半まで続くことになります。

バルカン遠征と教会会議

対イスラーム戦線が安定すると、ユスティニアノス2世はバルカン半島での勢力回復を目指し、688年にはスクラビニア遠征を行いました。テッサロニキを目標としたこの遠征では、ストリュモン川流域のスラヴ人やブルガール人への軍事行動が行われ、捕虜としたスラヴ人を小アジアへ移住させ、軍隊として組織しました。しかし、遠征の帰途、ブルガール人の襲撃に遭い、辛くも逃れることとなりました。

691年から692年にかけて、ユスティニアノス2世はコンスタンティノポリスでトゥルロ公会議を開催しました。これは、父コンスタンティノス4世が開催した第3コンスタンティノポリス公会議の補遺を目的とし、古代ギリシア的な信仰や慣習の禁止、イコン崇拝の承認などが決定されました。しかし、ローマ教皇セルギウス1世はこれに反対したため、逮捕しようと試みましたが、ローマ市民の反対により失敗しました。

失脚と復位

その後、ウマイヤ朝との直接対決を指向したユスティニアノス2世ですが、692年のセバストポリスの戦いでスラブ人部隊の寝返りによって惨敗を喫し、小アジアへのイスラームの攻撃が激化しました。軍費調達のための重税や、側近の専横により、人々の不満は高まりました。695年には、テマ・ヘラス長官に任じられたレオンティオスによるクーデターが起こり、ユスティニアノス2世は捕らえられ、鼻を削がれた上でクリミア半島のケルソンへ追放されました。この際、彼は「鼻なし」を意味する「リノトメトス」というあだ名で呼ばれるようになりました。

しかし、ユスティニアノス2世は復位を諦めませんでした。黄金の付け鼻をつけ、帝位への復帰を公然と表明しました。703年にはケルソンを脱出し、ハザール汗国へ逃れて、可汗の姉妹と結婚しました。さらに、第一次ブルガリア帝国のテルヴェル王の支援を得て、705年にレオンティオスを倒し、帝位を奪還しました。この際、息子ティベリオスを共同皇帝にしています。

復位後の統治と最期

復位後、ユスティニアノス2世はランゴバルド王国やローマ教皇との関係を修復し、711年には教皇コンスタンティヌスがコンスタンティノポリスを訪問しました。またブルガリアとの関係も良好に保っていました。しかし、ウマイヤ朝との戦いでは劣勢に立たされ、708年には要衝テュアナを奪われました。また、復位後の彼は猜疑心が非常に強くなり、多くの人々を粛清し、恐怖政治を行いました。

710年には、反抗的なラヴェンナへ遠征軍を送り、掠奪を行わせました。711年には、流刑地だったケルソンへの復讐を試みましたが、ケルソン市民の反乱を招き、艦隊も反乱に加担し、フィリピコス・バルダネスを皇帝として擁立しました。ハザール族の支援を受けた反乱軍がコンスタンティノポリスに迫ると、ユスティニアノス2世は小アジアへ逃亡しましたが、捕らえられ殺害されました。息子のティベリオスも殺害され、ユスティニアノスの遺体は海に捨てられ、首はラヴェンナとローマで晒し首となりました。この悲劇的な結末によって、ヘラクレイオス王朝による東ローマ帝国の支配は終焉を迎えました。

ユスティニアノス2世の生涯は、その二度の帝位と失脚、そして復讐劇に見られるように、東ローマ帝国の激動の時代を象徴しています。彼の統治は、権力闘争と陰謀、そして王朝の盛衰を物語る重要な歴史的出来事として、後世に語り継がれています。

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