コンスタン・デュティユー

フランス北部のノール県に位置する都市、ドゥエーで1807年 10月5日に生まれたコンスタン・デュティユーは、19世紀フランスの重要な画家、そして版画家です。彼の芸術家としての歩みは、パリのエコール・デ・ボザールで、当時著名な画家であったルイ・エルサンのアトリエに学ぶことから始まりました。

デュティユーのキャリアにおいて特筆すべきは、ロマン主義の巨匠、ウジェーヌ・ドラクロワからの強い影響です。1827年のサロン・ド・パリに出展されたドラクロワの壮大な絵画『サルダナパールの死』に接したデュティユーは、その力強い表現と色彩に圧倒され、深い感銘を受けました。これを機に、彼はドラクロワの芸術思想に共鳴し、熱心な信奉者となります。ドラクロワの作品から受けた影響は、デュティユー自身の表現にも色濃く反映されることになりますが、彼が心酔するドラクロワと実際に言葉を交わす機会を得たのは、この感動的な出会いから実に20年の歳月が流れてからのことでした。

また、デュティユーは、彼より約10歳年上である風景画の大家、ジャン＝バティスト・カミーユ・コローと親交を結びました。コローは1850年代頃から、北フランスのアラスとその周辺の穏やかな風景を描くためにこの地を頻繁に訪れるようになります。アラスにはコローを慕う画家たちが集まるようになり、彼らは後に「アラス派」として知られるようになります。デュティユーは、このアラス派の中心的なメンバーの一人として、コローと共にアラスの自然に向き合い、制作に励みました。

デュティユーの活動の場はアラスだけに留まりませんでした。彼はコローと共に、オランダや、後のバルビゾン派の画家たちが活動拠点としたフォンテンブローの森へと旅をしています。フォンテンブローでは、テオドール・ルソーやジャン＝フランソワ・ミレーといったバルビゾン派の画家たちとも交流を深めました。これらの旅や画家たちとの交流は、デュティユーの風景画における自然への洞察や表現技法に新たな広がりをもたらしました。

新しい技術への探求心も旺盛でした。当時、バルビゾン派の画家たちの間で試みられ、コローも関心を示していた「クリシェ・ヴェール」という写真乾板を用いた版画技法に、デュティユーも挑戦しています。これは、ガラス板に描いたイメージを感光紙に焼き付ける技法であり、絵画的な筆致と写真の精密さを組み合わせた独特の表現を可能にするものでした。彼は版画という分野でも、革新的な試みを行ったのです。

デュティユーは、画家としてだけでなく、教育者としても後進の指導にあたりました。ギュスターヴ＝アンリ・コランなど、後に画家として活躍する者たちが彼の教えを受けました。彼の教育は、当時のフランス美術界にも影響を与えたと言えるでしょう。

コンスタン・デュティユーは、1865年10月21日にパリでその生涯を閉じました。彼の芸術は、ドラクロワのロマン主義的な情熱と、コローやバルビゾン派が追求した自然への写実的で詩的な視点を融合させたものであり、19世紀フランス美術史において独自の存在感を示しています。なお、彼の曾孫にあたるアンリ・デュティユーは、20世紀を代表するフランスの偉大な作曲家として国際的に評価されており、デュティユー家は世代を超えて芸術分野で重要な足跡を残しています。画家、版画家、そして教育者として、同時代の主要な芸術家たちとの活発な交流を通じて、コンスタン・デュティユーはフランス美術史に確かな一頁を刻んだ人物です。

もう一度検索