コンポジット推進薬

コンポジット推進薬は、ロケットやミサイルの推進に用いられる固体推進薬の主要な形式の一つです。その最大の特徴は、燃料成分と酸化剤成分が均一に混ざり合わず、それぞれが微粒子として結合剤となるポリマー中に分散している点にあります。このような構造から「不均質系推進薬」に分類されます。

この推進薬の基本的な組成は、固体状の酸化剤微粒子と、それらを結合させる役割も果たす炭化水素系のポリマー（結合剤兼燃料）です。この組み合わせにより、比較的単純な構造で高いエネルギー密度と安定性を実現しています。

主要な構成成分と課題

コンポジット推進薬で最も広く用いられている酸化剤は過塩素酸アンモニウム（AP）です。そして、結合剤兼燃料としてよく使用されるのが、末端水酸基ポリブタジエン（HTPB）などの合成ゴムです。これらの主成分に加えて、燃焼速度の調整や性能向上を目的とした様々な添加剤が配合されます。

しかし、主成分の一つであるAPには重要な課題が存在します。APが燃焼する際に大量の塩化水素ガスが発生するため、ロケット打ち上げ後に広範囲に有毒なガスが拡散する可能性があります。これは環境や人体への影響が懸念される問題であり、このため、より環境負荷の少ない代替となる酸化剤の開発が世界中で精力的に進められています。

その他の成分

基本となる酸化剤と結合剤兼燃料に加え、コンポジット推進薬には多様な役割を持つ添加剤が少量配合されます。これらの添加剤は、推進薬の製造工程や燃焼特性、保存安定性などを最適化するために不可欠です。

硬化剤: 推進薬の構造を固めるために用いられます。トリレンジイソシアネートやヘキサメチレンジイソシアネートなどが代表的です。
可塑剤: 推進薬に適度な柔軟性を与え、製造時の加工性を高めたり、温度変化による応力を緩和したりします。ジオクチルアジペートなどが使用されます。
燃焼触媒: 燃焼反応を促進し、燃焼速度を調整する目的で添加されます。酸化鉄粉末やオキサミドなどがあります。
金属燃料: エネルギー密度を高め、より大きな推力を得るために加えられます。アルミニウム粉末が一般的で、ボロン粉末やマグネシウム・ナトリウムの塩化物なども研究されています。
* 振動燃焼抑制剤: 燃焼中に発生する圧力変動（振動燃焼）を抑制し、燃焼の安定性を保つために重要です。炭化ジルコニウムや酸化ジルコニウムなどが使用されます。

日本の宇宙航空研究開発機構（JAXA）が使用する固体ロケットブースター SRB-Aの推進薬（BP-207J）もコンポジット推進薬であり、その燃料成分はHTPB、AP、アルミニウム粉末に加え、燃焼触媒として酸化鉄が微量（0.1%）含まれています。

製造方法

コンポジット推進薬の製造方法にはいくつかの種類がありますが、主なものとして「直填式」と「ブロックポンディング方式」があります。

直填式 (Case Bonding)

この方式では、製造された推進薬の混合物を直接ロケットモーターのケース内部に注入し、ケースと一体となって硬化させます。この方法は、推進薬の体積を最大限に活用できる利点があります。

直填式の製造工程は概ね以下のようになります。

1. 前処理: 燃焼室のケース内壁に、推進薬の成分と類似した材質のライナ材を塗布します。これにより、燃焼時の熱からケースを保護し、推進薬とケースの良好な接着を確保します。
2. 予混和: 結合剤となるポリマー燃料と各種添加剤を事前に混ぜ合わせ、均一なペースト状にします。
3. 酸化剤処理: 酸化剤（通常はAP）の粒子径を設計通りの分布になるように調整します。これは燃焼速度に大きく影響するため重要な工程です。
4. 混和: 予混和された燃料・添加剤混合物に、処理済みの酸化剤と硬化剤を加えて混ぜ合わせます。この工程で、真空を用いて混合物中の気泡を徹底的に除去します。
5. 注入: 脱泡された推進薬混合物を、モーターケース内部に設置された中心孔形成用の型（マンドレル）の周囲に注入します。真空注入法が一般的に用いられます。
6. 硬化: 注入された推進薬を、通常50℃から60℃程度の温度で一定時間保ち、硬化剤によって固化させます。
7. 離型: 推進薬が硬化したら、中心孔を形成していたマンドレルを引き抜きます。この中心孔の形状が燃焼面積を決定し、推力パターンに影響します。
8. トリミング: 硬化した推進薬ブロックの端面などを設計寸法に合わせて切断、整形し、必要に応じて表面処理を行います。

ブロックポンディング方式

一方、ブロックポンディング方式では、まずモーターケースとは別の鋳型で推進薬の塊（ブロック）を製造・硬化させ、その後、完成した推進薬ブロックをモーターケースに挿入します。この方法は、製造工程が比較的柔軟であるという側面があります。

製造メーカー

コンポジット推進薬の製造は高度な技術を要するため、製造できるメーカーは限られています。日本国内では、日油やダイセルなどが代表的な製造メーカーとして知られています。

コンポジット推進薬