コーキュートス

コーキュートス — 冥府の嘆きの川

コーキュートス、またはコキュートスは、古代ギリシャ神話に登場する冥府の中の川であり、その名は「嘆きの川」を意味します。この川は、地下世界の他の川、特にアケローンに流れ込むことで知られています。冥府は「五つの川」に囲まれており、最も有名なのはステュクスですが、コーキュートスもその一つです。

文学におけるコーキュートス

コーキュートスは多くの古典文学作品に登場し、著名な作家たちに言及されています。ホメーロスやアイスキュロス、ウェルギリウス、キケロ、アプレイウス、プラトンなどの作品に名前が見られ、多様な文脈で物語が展開されています。特にミルトンの叙事詩『失楽園』では、その悲しげな水の流れから生まれる号泣の声に触れられています。また、シェイクスピアの作品『タイタス・アンドロニカス』や、リック・ライアダンの『ハデスの館』でもコーキュートスが描かれています。

ダンテの『神曲』におけるコーキュートス

ダンテの名作『神曲』では、コーキュートスは地獄の最下層、第九圏として位置づけられています。この作品において、ダンテとガイドのウェルギリウスは、巨人アンタイオスの助けを借りてコーキュートスに降り立ちます。この地獄の最深部は、凍った湖として描かれ、コーキュートスの水は神々しい彫刻『クレタの老人』から流れ落ちる涙によって象徴されます。

コーキュートスには、反逆者たちの霊が閉じ込められており、彼らはそれぞれの裏切りに応じた形で氷の中に囚われています。コーキュートスは4つの異なる円に分かれており、外から順番に、カイーナ、アンテノーラ、トロメア、ジュデッカという名前が付けられています。

反逆者たちの円

1. カイーナ: 血縁者に対して裏切りを犯した者たちがいる場所で、この名は聖書のカインに由来します。
2. アンテノーラ: 自らの祖国に対する反逆者が収容されており、『イーリアス』に登場するアンテノールの名を取っています。
3. トロメア: ゲストに対して裏切りを犯した者たちがいる円で、ここではジェリコの首長トロメオに由来しています。
4. ジュデッカ: 主に恩を仇で返した者たちが囲っており、イスカリオテのユダに名前を由来しています。

コーキュートスの中心には、ルチフェルが存在し、彼は氷に腰まで埋まった姿で表されます。彼には三つの顔があり、中央の口からはユダを噛み砕く様子が描かれています。両脇の口にはブルトゥスとカッシウスが入り、彼らもまた反逆者として罰を受けています。このようにして、コーキュートスは裏切り者たちの象徴的な場所となっています。

ダンテは、コーキュートスから明るい未来へと続く道を目指す中で、彼が進むべき方向を誤解しますが、これは地球の中心を通り過ぎたことによるもので、ウェルギリウスがその疑問に答えます。

このように、コーキュートスは古代の神話や文学において、裏切りや悔恨といったテーマを反映する重要な要素として存在し続けています。

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