タイタス・アンドロニカス

『タイタス・アンドロニカス』は、ウィリアム・シェイクスピアによって1590年前後に書かれたとされる、初期の悲劇作品です。シェイクスピアの全作品の中でも、特に暴力と残虐描写が際立っており、その異質さから長らく上演機会が限られていました。しかし、20世紀後半以降、その独特な魅力が再評価され、上演回数が増加しています。

登場人物

タイタス・アンドロニカス: ローマの貴族であり、ゴート討伐軍の将軍。
マーカス: 護民官で、タイタスの弟。
ルーシアス: タイタスの長男。
ラヴィニア: タイタスの娘。
少年（ルーシアス）: ルーシアスの息子、タイタスの孫。
タモーラ: ゴート人の女王。
エアロン: ムーア人で、タモーラの愛人。
ディミートリアス: タモーラの息子。
カイロン: タモーラの息子。
サターナイナス: 先のローマ皇帝の長男で、後に皇帝となる。
バシエイナス: 先のローマ皇帝の次男で、ラヴィニアの夫。

あらすじ

長年のゴート族との戦いを終え、ローマの将軍タイタス・アンドロニカスは凱旋します。しかし、その勝利の陰で、タイタスによって息子を生贄にされたゴートの女王タモーラは、復讐心を抱いていました。タモーラは、新皇帝サターナイナスに取り入り、その后となることで、アンドロニカス一族への復讐を開始します。

タモーラとその愛人であるムーア人エアロンの策略により、タイタスの娘ラヴィニアは、タモーラの息子たちによって夫を殺され、強姦されたあげく、口封じのために舌と両手を切り取られるという、凄惨な仕打ちを受けます。さらに、タイタスの息子たちも冤罪で逮捕され、タイタスは片手を切り落として皇帝に献上することで息子たちの釈放を願いますが、息子たちは処刑されてしまいます。長男ルーシアスは、息子たちを助けようとしたことでローマから追放されてしまいます。

全てがタモーラとその一味が仕組んだ策略だと知ったタイタスは、復讐を決意します。ルーシアスにゴート軍と結託させ、ローマを攻めさせる一方で、タモーラの息子たちを捕らえて殺します。また、エアロンは、タモーラが産んだ子供の父親が自分であることを知り、子供を連れて身を隠します。

ローマとゴートの和平会議の場で、タイタスはサターナイナスの助言に従い、娘ラヴィニアを強姦されたことを理由に絞殺し、タモーラには、息子たちの人肉パイを食べさせた上で刺し殺します。その直後、タイタスはサターナイナスに殺害され、サターナイナスはルーシアスによって殺されます。新皇帝に推挙されたルーシアスは、ゴート軍に捕らえられていたエアロンを生き埋めの刑に処し、物語は終結します。

この作品は、復讐心と暴力の連鎖を描き、人間の残酷さを赤裸々に表現しています。特にラヴィニアが受けた凄惨な仕打ちは、観客に強烈な印象を与えます。また、タモーラの復讐心やエアロンの狡猾さなど、登場人物たちの複雑な心理描写も、この作品の見どころの一つです。

映像化

『タイタス』(1999年、ジュリー・テイモア監督、アンソニー・ホプキンス主演) - 映画化作品。

日本語訳

多くの翻訳家によって日本語訳が出版されています。

坪内逍遥訳（1926年）
冨原芳彰訳（1966年）
小田島雄志訳（1975年）
福田恆存訳（1977年）
木下順二訳（1979年）
田中晏男訳（1988年）
松岡和子訳（2004年）

関連項目

en:Authorship of Titus Andronicus - 作品の作者に関する議論。
PSYCHO-PASS サイコパス - アニメ作品で、事件のモチーフとして使用されている。

外部リンク

劇団シェイクスピア・シアター
* 『タイタス・アンドロニカス』 封じられた言葉、封じられない言葉 - 花の絵

『タイタス・アンドロニカス』は、その過激な内容から賛否両論ありますが、シェイクスピアの初期作品として、その後の作品にも影響を与えた重要な作品と言えるでしょう。また、現代においても、そのテーマは普遍的であり、様々な解釈や演出を通して、観客に新たな問いを投げかけています。

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