コーコージー

ビルマ語で「ココジ」と発音されるコーコージー氏は、1961年 12月18日に生まれたミャンマーの政治家であり、同国の民主化運動を牽引してきた指導者の一人です。彼は特に1988年の学生を中心とした大規模な民主化運動「8888民主化運動」における中心人物として広く知られ、BBCニュースからはその主要メンバーと評されています。日本財団の笹川陽平氏からは「ミャンマーのガンジー」とも呼ばれる存在です。彼は軍事政権への抗議活動により、1989年から2012年にかけて複数回、合計17年以上にわたり獄中で過ごしました。アムネスティ・インターナショナルからは良心の囚人と認定されています。

政治活動の軌跡

8888民主化運動が勃発した当時、ヤンゴン大学で国際関係論を学び、将来は外交官か教師を目指していたコーコージー氏は、1988年3月に発生した「3月事件」に遭遇します。同年3月16日、ヤンゴン大学からヤンゴン工科大学へと向かうデモ行進に参加し、治安部隊との衝突で多数の犠牲者が出たデモ隊の一員となりました。このデモは後に大規模な民主化運動へと発展し、学生たちは1962年の学生運動で当局によって破壊されたヤンゴン大学の学生会館跡地に集結。そこで全ビルマ学生連合（ABFSU）を結成し、ミンコーナイン氏が議長、コーコージー氏が副議長として、拘束された学生の解放などを政府に強く要求しました。

1989年4月、コーコージー氏は逮捕されましたが、44日後に釈放されました。釈放後、周囲からは1990年に予定されていた総選挙に向けて政党の結成を勧められましたが、彼は党の結成ではなく外部からの支援に回る道を選びました。しかし、1991年12月、再び逮捕され、重労働を含む懲役20年の判決を受けました。この刑期は後に10年に短縮されましたが、最終的に2005年3月まで服役しました。長期にわたる獄中生活の中で、両親の死を知るという悲劇も経験しました。

2005年9月6日、コーコージー氏はミンコーナイン氏ら8888民主化運動に参加した他の活動家たちと共に「88年世代学生グループ」を結成。2006年頃からは、毎週日曜日、政治犯と同じ白い服を着てその家族を訪ね、連帯と抗議の意思を示す「ホワイト・サンデー」キャンペーンを開始しました。この運動も当局の弾圧を受け、2006年9月27日には関係者が一斉に逮捕され、2007年1月11日まで拘束されました。

2007年8月19日には、国民民主連盟（NLD）の元副議長チーマウン氏の三回忌に出席した帰り道、88年世代のグループは燃料価格の高騰でバス運賃が値上がりしていたため、歩いて帰ることにしました。しかし、彼らが歩き始めると次々に市民がその列に加わり、自然発生的に燃料価格値上げに反対するデモへと発展しました。このデモを受けてミンコーナイン氏とコーコージー氏はすぐに逮捕され、コーコージー氏は懲役65年という極めて長期の判決を受けました。彼は2012年1月の恩赦によってようやく釈放されるまで、再び長い獄中生活を送ることになります。

過酷な獄中生活と対話への信念

コーコージー氏は自身の長期にわたる刑務所生活について、その過酷さを詳細に語っています。通常は1日に2回、排泄物の処理と15分間のシャワーのためにのみ房外に出ることを許されました。房内での新聞はもちろん、一切の読書は禁じられていました。高温多湿で不衛生な環境は異臭に満ち、想像を絶するものだったといいます。懲罰として激しい暴行を受けた後、2.4メートル×3メートルの箱のような場所に14日間閉じ込められたこともありました。その間は一切外に出られず、排泄物もそのままにされたため、糞尿の中で寝起きしなければなりませんでした。また、「水の独房」と呼ばれる場所では、水のないわずかな場所に座ることはできても横になることは不可能でした。彼はこうした最悪の環境と粗末な食事の中で、カンフー映画に描かれる修行のように瞑想を行い、精神を鍛え上げたと述べています。

長年の弾圧と投獄にもかかわらず、コーコージー氏の対話による問題解決への信念は揺るぎませんでした。2012年にラカイン州でイスラム系住民（ロヒンギャ）と仏教徒の間で激しい衝突が発生した際、彼は事件を調査する政府のラカイン州調査委員会のメンバーに就任しました。政府の一員として活動することには一部から批判もあったようですが、彼は「国民和解のために、私たちは誰とでも協力する準備を整えようとしています」「私たち自身の感情によるものではありません。だからこそ私たち88世代は常に共通点を見つけ、お互いに協力できる方法を見つけています」「政府とだけ協力しているわけではありません。私たちは何度も議会を訪れ、連邦選挙管理委員会とも話し合い、議論しました」「だからこそ、私たちはお互いに協力し合い、政党や武装勢力とも協力する用意があるのです」と述べ、対話と協力の重要性を強調しました。

政治家としての歩みとロヒンギャ問題への見解

2014年4月には結婚し、式にはアウンサンスーチー氏や政府関係者だけでなく、軍事政権の指導者であったタンシュエ元上級大将やテインセイン元大統領からも祝電が寄せられるなど、その影響力の大きさがうかがわれました。

政治家としても活動を続け、2014年12月にはヤンゴンでのマンション開発に反対するデモに参加し、許可を得ていない場所でデモを行ったとして罰金刑を受けました。

2015年の総選挙ではNLDからの出馬を希望しましたが、候補者リストから外れ、立候補は叶いませんでした。彼はこの際、スーチー氏から「88世代は森を切り開いた木こりで、その役割は終わった。私は皆さんの切り開いた道を歩む」と言われ、深く失望したと語っています。同年10月には、テインセイン政権下で締結された全国停戦合意に、88年世代を代表する証人の一人として署名しました。

2018年、コーコージー氏は2020年の総選挙に向けて独自の政党「人民党（People's Party）」を結成しました。当初「8888人民党」という名称を検討しましたが、批判を受けて変更しました。東京新聞のインタビューに対し、彼は「1988年から32年たつが、民主化運動の目的は達成されていない」「独自の政党の結成が民主化の戦いを進める唯一の方法だ」と述べ、NLDが国民の期待に応えられていないと批判しました。しかし、2020年の総選挙では人民党は連邦議会で議席を獲得できず、惨敗に終わりました。

2021年のクーデター発生後、コーコージー氏は武装闘争ではなく対話による解決を訴えましたが、ソーシャルメディア上で激しい批判に晒され、一時期は家族とともに身を隠さざるを得なくなりました。その後、彼は軍事政権（SAC）が実施を予定している選挙への参加を表明し、人民党の政党登録を行いました。2024年6月には政党代表として中国を訪問するなど、活動を続けています。

コーコージー氏はラカイン州調査委員会のメンバーであった際、ロヒンギャに対する見解について批判を受けています。2012年の委員会メンバーとの会話では、この問題で「人権」という言葉が使われるなら委員会を辞任すると発言したとされています。また、2013年の国際訪問団に対しては、ラカイン州の状況は民族間の対立であり、国連特別報告者の調査対象である人権侵害とは異なると述べました。2015年のフロンティア・ミャンマー紙のインタビューでは、イギリス植民地時代に多くのインド人がミャンマーに連れてこられたことが民族主義的な感情を刺激し、現在の人口動態の変化（一部のグループの出生率が高いこと）が仏教徒コミュニティの懸念となっていることに理解を示しました。彼は、すべての民族が国に忠誠を誓い、統一されたアイデンティティーを追求すべきであり、市民権の取得とロヒンギャとしての民族的アイデンティティの主張の間に存在する問題点を指摘しています。

コーコージー氏は、幾度もの投獄と苦難を乗り越え、ミャンマーの民主化運動において重要な役割を果たし続けている人物です。その活動は常に議論を呼ぶものですが、長期にわたり国の政治に関与し、対話と独自の政治路線を模索する姿勢は、ミャンマー現代史を語る上で欠かせない存在であることを示しています。

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