コースとセヴェンヌの地中海農牧業の文化的景観

コースとセヴェンヌの地中海農牧業の文化的景観：世界遺産登録への道のり

フランス南部の中央山塊に広がるコース地方とセヴェンヌ山脈。この地域は、独特の農牧文化と景観を育み、2011年にUNESCOの世界遺産リストに登録されました。その登録までの道のりは、決して平坦ではありませんでした。

世界遺産登録：長く険しい道のり

この地域の文化的景観は、2002年にフランスの暫定リストに記載されました。しかし、世界遺産委員会の諮問機関であるICOMOS（国際記念物遺跡会議）は、資産の範囲や内容に懸念を示し、2005年の最初の推薦は「登録延期」という結果に終わりました。

その後も、フランス当局は資産範囲の再考、再推薦を繰り返しました。ICOMOSからの「登録延期」勧告は2度続き、世界遺産委員会でも「情報照会」という決議が下されました。情報不足や現地調査の必要性が指摘されたのです。

価値の再定義と登録

3度目の推薦（2011年）では、地域の価値を「農牧業、特にロックフォールチーズ生産のための羊の粗放的牧畜」に重点を置いて提示しました。ICOMOSは、世界遺産としての顕著な普遍的価値を認めつつも、「情報照会」勧告を出しました。しかし、この年の世界遺産委員会では、ICOMOSの勧告が覆され、登録が認められたのです。これは、諮問機関の「登録見送り」勧告が覆されて登録された例として、当時話題になりました。

登録名と範囲

世界遺産としての正式登録名は、英語で「The Causses and the Cévennes, Mediterranean agro-pastoral Cultural Landscape」、フランス語で「Les Causses et les Cévennes, paysage culturel de l’agro-pastoralisme méditerranéen」です。日本語訳は資料によって若干異なりますが、いずれもコース地方とセヴェンヌ山脈の農牧文化景観を表しています。

登録範囲は、アヴェロン県、ガール県、エロー県、ロゼール県の4県にまたがり、134のコミューンを含みます。特に「ヴィル・ポルト（玄関の町）」と呼ばれる5つの町は、地域間の境界となっています。村々の景観や石造りの農家群には、11世紀以降の修道院の影響が見られるとされています。また、ロゼール山での夏の移牧は、ヨーロッパでも伝統が残る数少ない場所の一つです。登録範囲を取り囲む緩衝地域には、さらに97のコミューンが存在しています。

保護と課題

登録範囲は、セヴェンヌ国立公園やグラン・コース地域圏自然公園によって保護されてきましたが、シェールガス採掘の可能性なども脅威となっています。しかし、ICOMOSが特に懸念したのは、伝統的な農牧業の衰退でした。

登録基準

世界遺産委員会は、この地域を以下の基準で登録しました。

(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。: コースとセヴェンヌは、地中海農牧業の独特の様式を示す顕著な例と認められました。特徴的な社会構造や、羊の放牧を基礎とする伝統が、景観の構成に反映されている点が評価されました。
(5) ある文化（または複数の文化）を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。: 地中海性農牧業の模範的な事例、南西ヨーロッパにおける共通の反応を代表するものとして認められました。

まとめ

コースとセヴェンヌの地中海農牧業の文化的景観は、長い道のりを経て世界遺産に登録されました。その登録は、伝統的な農牧文化の保護と継承の重要性を改めて示すものです。しかし、現代社会の様々な圧力に対処していくための継続的な努力が、今後も必要となるでしょう。

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