国際記念物遺跡会議

国際記念物遺跡会議（ICOMOS）とは

国際記念物遺跡会議（ICOMOS、イコモス）は、世界の歴史的な記念物、文化遺産、遺跡の保護を専門とする国際的な非政府組織です。1965年に設立され、ユネスコのヴェネツィア憲章に基づき、記念物および遺跡の保護に関するユネスコの諮問機関としての役割を担っています。世界107か国以上に国内委員会を持ち、専門家による対話や情報発信を通じて、文化遺産の保存理念、技術、方針に関する議論を促進しています。

ICOMOSの重要な活動の一つに、世界遺産条約に基づき、世界遺産リストへの登録物件をユネスコに答申することが挙げられます。これにより、文化遺産の保護と継承において、国際的な連携を強化する上で重要な役割を担っています。

日本イコモス国内委員会

日本におけるICOMOSの国内委員会は、1972年にブダペストで開催されたICOMOS総会で承認されました。初代委員長には建築史家の関野克が指名され、1979年に正式に発足しました。2018年には一般社団法人化し、より組織的な活動を展開しています。

日本イコモス国内委員会は、国内の文化遺産保護に関する情報収集や提言を行っており、特に危機に瀕している文化遺産に対しては、「ヘリテージ・アラート」と呼ばれる声明を発表し、保全を訴えています。

ヘリテージ・アラートとは

ヘリテージ・アラートは、ICOMOS本部が発する文化的資産の保護を促進するための声明であり、法的拘束力はありません。危機に直面している文化遺産に対し、学術的な観点から問題を指摘し、未来世代への継承に向けた解決策を提示することを目的としています。

しかし、日本では、ヘリテージ・アラートが発令された事例のほとんどが、関係機関によって拒絶されており、その実効性が課題となっています。

日本におけるヘリテージ・アラートの事例

これまでに、日本国内で発令されたヘリテージ・アラートの主な事例は以下の通りです。

1. 出雲大社庁の舎 (2016年)
1965年に菊竹清訓によって設計された鉄筋コンクリート造の出雲大社庁の舎の建て替え計画に対し、日本イコモスは解体中止を勧告しました。しかし、出雲大社側は、雨漏りや老朽化を理由に木造での建て替えを強行しました。

2. 高輪築堤 (2022年)
高輪ゲートウェイ駅周辺の再開発工事で出土した高輪築堤の遺構について、JR東日本は一部の現地保存を決定しましたが、日本イコモスは全面保存を求め、ヘリテージ・アラートを発令しました。

3. 明治神宮外苑 (2023年)
明治神宮外苑の再開発計画に対し、日本イコモスは、庭園都市としての価値を破壊するものとして、ヘリテージ・アラートを発令し、事業者の見解を批判しました。

4. 門司鉄道遺構 (2024年)
門司港駅周辺で発見された明治時代の鉄道遺構について、北九州市が複合施設建設を計画したことに対し、ICOMOS本部がヘリテージ・アラートを検討し、日本イコモスも発令しました。しかし、市長は「ぶれるわけにはいかない」と拒絶しています。

これらの事例からもわかるように、日本国内では、ICOMOSの勧告が必ずしも受け入れられる状況ではありません。

その他の事例

都城市民会館 (2019年)：菊竹清訓が設計した都城市民会館の解体計画に対し、日本イコモスは危機遺産勧告を試みましたが、都城市側の反対により、ヘリテージ・アラートの発令を断念しました。

佐渡金山 (2024年)：ICOMOSから情報照会勧告が出されました。

まとめ

ICOMOSは、世界各地の文化遺産保護において重要な役割を果たしている国際組織です。日本では、日本イコモス国内委員会が中心となり、文化遺産の保護活動を行っていますが、その活動は必ずしも国内で十分に理解されているとは言えません。ヘリテージ・アラートを通じて、文化遺産の危機を訴えるものの、法的拘束力がないため、関係機関との合意形成が難しいのが現状です。今後の文化遺産保護においては、ICOMOSの活動への理解を深め、より効果的な連携体制を構築することが重要となるでしょう。

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