文化的景観

文化的景観とは

文化的景観とは、地理学、生態学、遺産研究などの分野で用いられる概念で、人間が自然と関わり合いながら作り上げてきた景観のことを指します。単なる自然や人工物の集合体ではなく、自然と人間の営みが相互に影響し合うことで生まれる、文化的、歴史的な意味合いを持つ景観と捉えられています。

文化的景観の定義と特徴

文化的景観は、以下の様な特徴を持つと考えられます。

自然と人間の共存: 庭園のように人間が自然の中に作り出した景観や、田園、牧場のように産業と深く結びついた景観、さらには、宗教的な聖地のように、自然そのものに文化的な意味が付与された景観など、その形態は多岐にわたります。
歴史的・文化的意義: 単に美しい景色というだけでなく、そこに人々の生活や歴史、文化が深く関わっている点が重要です。
変化と多様性: 社会のニーズや環境の変化に応じて、景観は常に変化し、多様な姿を見せます。

世界遺産における文化的景観

ユネスコの世界遺産委員会は、1992年に文化的景観という概念を導入しました。これは、「自然と人間の共同作品」である文化財を保護する上で、非常に重要な考え方です。

文化的景観の3つの分類

世界遺産委員会は、文化的景観を以下の3つに分類しています。

1. 意匠された景観: 庭園、公園、宗教的な空間など、意図的に設計、創造された景観です。
2. 有機的に進化する景観: 社会の様々な需要に応え、自然環境と一体化しながら発展してきた景観です。
3. 関連する景観: その土地の自然環境が、宗教や学問と強く結びつき、人々の生活に大きな影響を与えている景観です。

文化的景観として登録された世界遺産の例

文化的景観という概念が導入されて以降、世界各地で数多くの文化的景観が世界遺産に登録されています。以下に代表的な例を挙げます。

トンガリロ国立公園（ニュージーランド）: マオリの人々にとって信仰の対象であるという文化的側面が評価され、複合遺産となりました。
石見銀山遺跡とその文化的景観（日本）: 銀鉱山跡と、周辺の自然環境や人々の暮らしが一体となった景観です。
スクルの文化的景観（ナイジェリア）: スクル族の独特な文化と景観が残る地域です。
バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群（アフガニスタン）: 古代の仏教遺跡と、周辺の文化的景観が組み合わさった地域です。
シントラの文化的景観（ポルトガル）: 王宮や庭園など、ロマン主義の影響を受けた文化的景観が残る地域です。

上記以外にも、「アルト・ドウロ・ワイン生産地域」（ポルトガル）や「フィリピン・コルディリェーラの棚田群」、「紀伊山地の霊場と参詣道」（日本）など、文化的景観として認められる世界遺産は多数存在します。

日本における文化的景観

日本では、2005年に改正された文化財保護法によって、文化的景観の保護に関する規定が盛り込まれました。文化庁は、「風土に根差し営まれてきた生活や生業を表す景勝地」という観点から、文化的景観の保護を進めています。

日本の文化的景観の選定プロセス

文化庁は、農林水産業に関する候補地を対象に、以下の様なプロセスを経て、重要文化的景観を選定しています。

1. 一次調査: 全国から2311ヶ所の候補地を選定。
2. 二次調査: 一次調査で選ばれた候補地から、502ヶ所を選定。
3. 最終調査: 二次調査で選ばれた候補地から、180ヶ所を選定。
4. 重要地域選定: 最終調査で選定された候補地から、66ヶ所を重要地域として選定。
5. 重要文化的景観選定: 重要地域の中から、特に保護が必要な景観を重要文化的景観として選定。

現在、日本では、主に農林水産業に関わる文化的景観が選定されていますが、今後は工業地帯やニュータウン、商店街のような分野にも、その対象を広げていくことが検討されています。

まとめ

文化的景観は、自然と人間が長い時間をかけて作り上げてきた、かけがえのない遺産です。世界遺産に登録されている文化的景観は、その多様性と普遍的な価値を物語っています。日本では、文化財保護法に基づいて文化的景観の保護が進められており、次世代に引き継いでいくための取り組みが続けられています。

この概念を理解することで、単なる風景ではなく、その土地の歴史や文化、人々の生活を感じることができるでしょう。

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