コード・アンノウン

ミヒャエル・ハネケ監督の『コード・アンノウン』（2000年）は、フランス、ドイツ、ルーマニア合作のドラマ映画です。ジュリエット・ビノシュとティエリー・ヌーヴィックらが出演し、第53回カンヌ国際映画祭ではエキュメニカル審査員賞を受賞しました。日本では劇場公開されず、シネフィルイマジカでの放映を経て、DVDでリリースされました。

この映画は、一見すると関連性の薄い複数の物語が、断片的に、そして複雑に絡み合いながら進んでいくオムニバス形式をとっています。聾唖の子供たちがジェスチャーゲームをしている場面から始まり、物語は様々な登場人物の人生を映し出していきます。

女優のアンヌは、恋人のジョルジュの弟であるジャンから突然の訪問を受けます。家出してきたジャンは、農家の父親から家業を継ぐことを強要され、反発しているのです。アンヌは忙しい仕事の合間を縫ってジャンに会うものの、冷淡な態度で対応します。

アンヌの無関心に腹を立てたジャンは、彼女からもらったパンの包み紙を物乞いをしている女性、マリアに投げつけます。この行為が、黒人青年のアマドゥとの口論、そして暴力沙汰へと発展していきます。この事件は、移民であるアマドゥと、彼の家族が抱える困難な現実を浮き彫りにします。

一方、アンヌは、女優としての仕事で「真実でない姿」を演じることに葛藤を抱えています。映画の撮影現場で、予期せぬハプニングを装った演出に巻き込まれ、彼女のリアルな恐怖がカメラに捉えられます。また、アパートで聞こえた子供の悲鳴や、ドアに挟まれたメモがアンヌに不穏な影を落とします。

アンヌの恋人であるジョルジュは戦場カメラマンです。コソボから帰国した彼は、アンヌと時間を過ごしますが、友人たちから「写真に体験が感じられない」と批判を受けます。スーパーマーケットでの口論では、アンヌから「誰かを幸せにしたことはあるのか」と問われ、「ない」と答えるジョルジュ。しかし、彼はカメラを改造し、地下鉄の乗客をさりげなく撮影することで、人々のありのままの姿を捉えようとします。

ジョルジュの弟ジャンは、結局実家に戻りますが、父親との溝は埋まらず再び家出します。この出来事により、父親は家畜の牛を殺してしまうという悲劇的な結末を迎えます。

マリアは、不法入国者であることが判明し、祖国ルーマニアへ強制送還されます。新しい生活を始めるものの、パリでの苦い経験を語ることはできません。そして再びパリに戻り、物乞いをしようとしますが、以前と同じ場所には既に他の人がいました。

アンヌは、アフレコを終えて帰宅途中、地下鉄で移民の若者に絡まれ、唾を吐きかけられます。

それぞれの物語は、聾唖の子供たちの太鼓の大合奏と共に、静かに幕を閉じます。この映画は、一見無関係に見える出来事が、複雑に絡み合い、現代社会における様々な問題、コミュニケーションの困難さ、社会的不平等、疎外感などを、静かに、しかし力強く描いています。それぞれの登場人物が抱える問題や葛藤は、観る者に考えさせられる多くの余韻を残します。 登場人物たちの複雑な感情や、社会の闇の部分が繊細に描かれている点も見逃せません。 また、ハネケ監督独特の演出手法も、映画全体の雰囲気を形作っています。一見淡々と描かれているように見えますが、その奥には深遠なテーマが潜んでいる、考えさせられる作品です。

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