ゴア・ヴィダル

ゴア・ヴィダル：アメリカ文学史に名を刻んだ作家、批評家、そして政治活動家

ゴア・ヴィダル (1925年10月3日 - 2012年7月31日) は、20世紀アメリカを代表する作家の一人です。小説家、劇作家、エッセイスト、脚本家、俳優、そして政治活動家と、多岐に渡る活動で知られ、その生涯は常に物議を醸し、議論を巻き起こし続けました。本名ユージーン・ルーサー・ゴア・ヴィダル。ニューヨーク州ウェストポイントの陸軍士官学校で生まれ育ちました。父は航空学の教官、母方の祖父はオクラホマ州選出の民主党上院議員トマス・P・ゴアで、ヴィダルはこの祖父の影響を強く受け、アメリカ帝国主義への批判を生涯に渡って貫きました。

挑戦的な作家としてのキャリア

ヴィダルの文学的キャリアは、早くから注目を集めました。21歳で発表した処女作『Williwaw』に続き、1948年に発表した『都市と柱 (The City and the Pillar)』は、同性愛を肯定的に描いた作品として、当時アメリカ社会に大きな衝撃を与えました。この作品は「背徳的」「反アメリカ的」と激しい批判を浴び、ヴィダル自身もニューヨーク・タイムズからの書評掲載拒否という憂き目に遭います。しかし、海外のゲイ作家や文学者たちからの支持もあり、ヴィダルの作品は次第に評価を得ていきます。 この小説は、硫黄島の戦いで戦死した同級生への献辞であり、ヴィダルにとって特別な意味を持つ作品でした。

その後、ヴィダルはヘミングウェイの影響を脱却しようと試行錯誤を重ね、独自の文体を確立していきます。初期の小説は商業的な成功には恵まれず、財政難に陥った時期もありました。そのため、小説執筆と並行して脚本家としての活動も盛んに行い、ブロードウェイでヒットした演劇『ある小惑星への訪問』や『The Best Man』は映画化もされています。また、エドガー・ボックスというペンネームで探偵小説シリーズも執筆しており、ハメットやチャンドラーの後継者として高く評価されましたが、ヴィダル自身はこれをあくまで一時的な仕事として位置付けていました。

アメリカ史を彩る歴史小説

ヴィダルは、アメリカ史を題材とした歴史小説にも多くの作品を残しました。特に7部作からなる「帝国の物語」シリーズは、彼の歴史家としての側面を際立たせています。初期の作品『ワシントンD.C.』から始まり、『アーロン・バアの英雄的生涯』『リンカーン』など、著名な歴史上の人物を中心に、アメリカの建国から現代までの歴史を独自の視点で描いた壮大な作品群です。これらの作品は、その緻密な史実描写と鋭い分析で高い評価を得ています。さらに、古代ペルシアを舞台にした『Creation』や、原始キリスト教を皮肉たっぷりに描いた『Live from Golgotha』など、歴史小説の枠を超えた作品にも挑戦しています。

風刺と挑発に満ちた作品群

ヴィダルは、歴史小説とは異なる、極めて前衛的な作風を持つ作品群も多数発表しました。それらは彼が「諷刺的な発明」と呼ぶもので、『マイラ・ブレッキンリッジ』はその代表作です。性転換者のヒロインを主人公に、ハリウッドやアメリカ社会を痛烈に風刺したこの作品は、発表当時大きな論争を巻き起こしましたが、現在ではジェンダー論における先駆的な作品として再評価されています。他にも、カルト宗教を扱った『Messiah』や『大予言者カルキ』は、その予言めいた内容から、後に現実の事件と重なる部分があるとして注目を集めました。これらの作品は、歴史小説とは異なる、ヴィダルの革新的な作家性を示すものです。

鋭い批評眼と政治活動

ヴィダルは、小説や歴史小説のみならず、エッセイストとしても高く評価されています。政治、歴史、文学など幅広いテーマを扱い、常に鋭い批評眼で時事問題を斬り込みました。特に、アメリカ大統領や政治家に対する批判は辛辣なものだったため、物議を醸すこともありました。また、自らの政治的主張を明確に示し、実際に選挙に出馬するなど、積極的に政治活動にも参加しました。

晩年と評価

晩年はイタリアとアメリカで過ごしました。2012年に肺炎の合併症のため死去。86歳でした。没後も、その作品は世界中で読まれ続け、その評価はますます高まっています。小説家、劇作家、評論家として、そして政治活動家として、ゴア・ヴィダルは、アメリカ文学史に、そして世界文学史に、大きな足跡を残しました。彼の著作は、現在も現代社会を読み解く上で貴重な示唆を与えてくれるでしょう。

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