原始キリスト教

原始キリスト教とは

原始キリスト教は、キリスト教の最初期、具体的にはイエス・[[キリスト]]の死後から新約[[聖書]]が成立し始める1世紀半ばまでの時期のキリスト教とその教団を指します。この時期は、キリスト教がユダヤ教から分離し、独自の信仰と組織を形成していく上で、非常に重要な時期でした。

用語について

最初期のキリスト教を表す用語は多岐にわたり、原始キリスト教、原始教団、原始教会、使徒時代教会、初代教会などと呼ばれています。これらの用語が指す時期も、必ずしも明確に定まっているわけではありません。

イエスの弟子たちがユダヤやガリラヤで伝道活動を始めた当初からをキリスト教とみなすか、あるいは、当初はユダヤ教の一派であったとするかについても、定説はありません。キリスト教成立を、最古の福音書である『マルコ福音書』が成立した70年頃とする研究者もいます。彼らは、70年頃以前の弟子たちの活動を「ユダヤ教ナザレ派」や「ユダヤ教イエス派の運動」と呼ぶことを提唱しています。

成立過程

最初の教会、すなわち原始教団は、エルサレムに成立したと考えられています。イエスの死後、弟子たちはイエスの人格的印象や復活体験を共有し、集会を始めました。彼らはイエスを「キリスト（救世主）」、「神の子」として崇拝し、その再臨を待ち望みました。この集会には、ペトロやヨハネら12使徒、イエスの兄弟ヤコブなども参加していました。

当初、彼らは自身をユダヤ教徒と疑わず、ユダヤの伝統に従い神殿にも参拝していました。しかし、次第に共同体を形成し、祈りや聖餐の初期的な形式を整え、共同生活や財産の共有も行われるようになりました。また、集会を維持・継続するための決まりも定められていきました。

原始教団は、当初はユダヤ人とギリシャ語を話すヘレニスト・ユダヤ人で構成されていましたが、次第に異邦人にも広がりました。教団の拡大に伴い、イエスを直接知らない信者の中から指導者があらわれ、共同体の組織化が図られました。洗礼や癒やし、悪霊払いなどの活動に加え、外部への施しや奉仕なども行われるようになりました。これらの実務を担う役割として「執事」が設けられました。

ディアスポラのユダヤ教徒によるエルサレム教会への迫害を契機として、執事ステファノのグループがサマリアやシリアに宣教に出かけ、その後、ペトロやパウロも異邦人への伝道を行いました。これにより、イエスの教えはエーゲ海周辺の都市に広がり、60年頃にはローマにも到達したと考えられています。

教義の多様性

教義史の観点からは、原始教会におけるキリスト解釈は統一されていたとは言えません。ガリラヤ周辺にもキリスト教共同体が成立していたほか、エルサレムからユダヤ主義に傾いたキリスト者が、ガラテヤ、ピリピ、コリントなどの教会に影響を与えていました。イエスの言葉を伝えた人々も、パレスチナからシリアに入り共同体を形成しました。また、ローマやアレクサンドリアにも、ペトロやパウロとは独立した教会が設立されました。

さらに、神秘主義やグノーシス主義の立場からキリスト仮現論を説く集団も存在しました。このように、原始教会には多様な教義が存在していたと考えられています。

初期キリスト教の研究者バート・D・アーマンは、初期キリスト教を以下の4つのグループに分類しています。

エビオン派
マルキオン派
グノーシス主義
原始正統派キリスト教

このうち、原始正統派キリスト教は、後の使徒教父や2世紀、3世紀の一部のキリスト教徒によって支持され、異端とされたエビオン派、グノーシス主義、マルキオン派を退け、ニカイア公会議で正統派の地位を確立しました。

非神話化

ルドルフ・カール・ブルトマンが提唱した非神話化の理論によれば、原始教会の信仰内容は、ケリュグマ伝承とイエス伝承の二つに大別できます。

ケリュグマ伝承: 「神がイエスを死人の中からよみがえらせた」「イエスは主である」という信仰告白に基づいたもので、キリストの死を人間の罪の贖いとして捉える解釈と、キリストの死を神への従順の証しと捉える解釈の二通りがあります。
イエス伝承: イエスの奇跡行為や言葉を終末論的に解釈したものです。

ユダヤ教との関係

キリスト教は、ユダヤ教を母体として、ユダヤ教の一分派として始まりました。当初、イエスをキリスト（救世主）と認めるか否かで、ユダヤ教の主流派とは相違があったものの、イエスの弟子たちはユダヤ教の祭儀に日々参加していました。

信者が「キリスト者（クリスチャン）」と呼ばれるようになったのは、パウロが中心となって初めてユダヤ人以外に伝道した地、アンティオキアでのことでした。これはイエスの刑死から十数年後のことですが、当時は単なるあだ名に過ぎず、信者たちが自らキリスト者と称するのは2世紀以降のことです。

現代のキリスト教との関係

多くのキリスト教団体が、原始キリスト教と同一の信仰であることを強調します。これは、自らの正統性を主張するためですが、実際に原始キリスト教と同一の信仰であるかどうかは、宗派によって異なります。

原始キリスト教の信仰を保持し続けていると主張する団体: カトリック教会、正教会、非カルケドン派の伝統教会（アルメニア教会やシリア正教会など）、イングランド国教会、聖公会、その他プロテスタント各派などがあります。これらのうち、カトリック教会、正教会、非カルケドン派の伝統教会は、原始キリスト教と歴史的な連続性があるとしています（使徒継承）。
失われた原始キリスト教を現代に復興したと主張する団体: 末日聖徒イエス・[[キリスト]]教会、エホバの証人、イエス之御霊教会などがあります。これらの団体は、1世紀のキリスト教が途中で堕落・背教し、自らの団体がそれを復興したと主張します。このため、伝統教会からは異端と見なされることが多いです。

末日聖徒イエス・[[キリスト]]教会は、「初代教会へ戻れ」と主張しますが、教理は伝統的なキリスト教とは大きく異なり、異端的であると見なされています。
エホバの証人は、三位一体を否定し、アリウス派に近い考えを持っています。また、十字架刑を「苦しみの杭」と解釈するなど、独自の教理を持っています。
イエス之御霊教会は、三位一体説を否定し、唯一の神イエス・[[キリスト]]の中に父と聖霊が存在するとするワンネスの教義を主張します。

原始キリスト教と異なる点を認める団体: 世界平和統一家庭連合（統一教会）は、「イエスによる救済は失敗だった」と主張し、原始キリスト教ではイエスの本懐を誤解しているとします。イエスが十字架で死んだのは、イスラエル社会がイエスを受け入れなかったためであり、その救済は霊のみにとどまり、肉の救済は果たせなかったと主張しています。

原始キリスト教は、キリスト教の歴史において、その後のキリスト教の発展に大きな影響を与えた重要な時期でした。その教義や組織は多様であり、現代のキリスト教にも様々な形で影響を与えています。

もう一度検索