ゴッド (曲)

ゴッド（God）

「ゴッド」は、1970年に発表されたイギリスのミュージシャン、ジョン・レノンによる楽曲です。彼のソロ・キャリアにおける最初の公式アルバムである『ジョンの魂』のクライマックスを飾る楽曲として収録されており、ビートルズという巨大な存在から離れ、一人のアーティストとしての道を歩み始めたジョン・レノンの、過去との断絶と新たな自己の確立を高らかに宣言する重要な作品と位置付けられています。

楽曲の内容と歌詞

この楽曲の中心的なテーマは、「信じる」ことの対象を問い直し、あらゆる権威や偶像を否定することにあります。歌詞の中でレノンは、「神とは、私たちの苦痛を測るためだけに存在する概念に過ぎない」という挑発的な主張を展開します。そして、彼が「信じない」と断言する具体的な対象が次々と列挙されます。そこには、魔法、易経、聖書、タロットといった神秘主義や宗教的なものから、歴史上の人物であるヒトラー、イエス・キリスト、ジョン・F・ケネディ、仏陀、さらにはマントラ、ギーター、ヨガといった精神的な修行、王、そして人気を博したエルヴィス・プレスリーやボブ・ディラン（ジマーマン）といったポップカルチャーの象徴まで含まれます。そして極めつけは、彼自身を世界的スターダムに押し上げた「ビートルズ」までもが、否定の対象として挙げられている点です。これは、レノンがいかに過去の栄光や外部の価値観から解放されようとしていたかを示しています。

静寂を挟んだ後、楽曲の後半でレノンは一転して、彼が唯一信じる対象を明かします。「僕はヨーコと自分を信じる」と歌い、妻でありパートナーであるオノ・ヨーコと、自身の内面こそが真実であると宣言します。そして、「愛する友よ、頑張っていこう、夢は終わった」という、過去の幻想に別れを告げ、現実を生きることを促すような力強いメッセージで締めくくられます。その赤裸々で個人的、かつ既存の価値観を徹底的に否定する歌詞は、発表当時、音楽界のみならず社会全体に衝撃を与え、大きな議論と反響を巻き起こしました。

ジョン・レノンの言葉

この楽曲のテーマについて、ジョン・レノン自身は「意味は意味自身に宿る」と述べています。また、神という概念について問われた際には、「もし神が存在するとすれば、我々全員が神だ」という独特の考えを示しており、特定の超越的な存在ではなく、個々の人間の中にこそ真実や価値が存在するという彼の哲学がうかがえます。

収録アルバムと別テイク

「ゴッド」は、オリジナル・アルバムとしては『ジョンの魂』（1970年）に収録されています。また、後に発表された『イマジン (オリジナル・サウンドトラック)』（1988年）や、ベスト・アルバムである『ギミ・サム・トゥルース.』（2020年）にも収録されています。

別テイクとしては、ボックス・セット『ジョン・レノン・アンソロジー』（1998年）およびそのダイジェスト盤『ウォンサポナタイム』（1999年）に、ピアノが入っていない、ジョン、リンゴ・スター、クラウス・フォアマンという3人による演奏バージョンが収録されています。さらに、2004年に発表された『ラヴ〜アコースティック』には、ジョンのアコースティック・ギター一本による弾き語りの未発表テイクが収められています。

後世への影響とオマージュ

ジョン・レノンの「ゴッド」は、その革新的な歌詞とテーマ性から、後世のアーティストにも影響を与えています。

アイルランドのロックバンド U2 は、1988年のアルバム『魂の叫び』に収録された楽曲「ゴッド・パート2」（God Part II）で、レノンの「ゴッド」に直接的な影響を受けていることを示しました。歌詞カードには「-for John Lennon」と記されており、彼らのボーカルであるボノは、悪魔、強制立ち入り、コカイン、そして物議を醸したレノンの伝記作家アルバート・ゴールドマンなど、様々な事象を「信じない」と列挙した後、「ただ愛を信じる」と力強く歌っています。
日本のミュージシャン、宮沢和史率いるバンド GANGA ZUMBA は、2007年のアルバム『UM』の初回限定盤ボーナスCDに「God Part III」という楽曲を収録しています。こちらも、レノンのオリジナルやU2に倣い、様々な事象を「信じない」と列挙し、最後は「ただロックンロールを信じる」という内容になっています。
* クイーンのギタリストである ブライアン・メイ は、1993年のライブにおいて、歌詞の一部を変えてこの曲を披露しています。これは、1991年に亡くなったバンドのボーカル、フレディ・マーキュリーを失った後、ソロ・アーティストとして自立していく自身の心境をこの曲に重ね合わせたものと考えられています。ただし、この時の演奏はライブ盤には収録されていません。

「ゴッド」は、ジョン・レノンが真の自己を探求し、過去の遺産や外部の期待から解き放たれようとした過程を示す、彼のソロワークの中でも特に哲学的な深みを持つ一曲です。その影響は現在も続いています。

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