ゴリアテの首を持つダヴィデ (カラヴァッジョ、ボルゲーゼ美術館)

カラヴァッジョ作「ゴリアテの首を持つダヴィデ」

カラヴァッジョの「ゴリアテの首を持つダヴィデ」は、旧約聖書に登場するダヴィデとゴリアテの戦いを描いた油彩作品です。この絵画は、カラヴァッジョがローマでラヌッチョ・トマッソーニを殺害した後、ナポリに滞在していた1609年から1610年頃に制作されたと考えられています。現在、この作品はローマのボルゲーゼ美術館に所蔵されており、その解釈や制作年については、今もなお議論が続いています。

作品の背景

この絵画の主題は、『サムエル記上』に記されたダヴィデとゴリアテの物語です。ダヴィデは、竪琴の名手でありながら勇敢な戦士でもありました。ペリシテ人との戦いで、彼は巨人のゴリアテを投石で倒し、その首を切り落としました。この絵画では、ダヴィデがゴリアテの首を持ち上げている場面が描かれています。

作品の特徴

この作品で特徴的なのは、ダヴィデが勝利を喜ぶのではなく、切断されたゴリアテの首を悲しげに見つめている点です。また、ゴリアテの顔は、カラヴァッジョ自身の自画像であるとされています。カラヴァッジョは、過去にも自画像を作品に描き込むことがあり、この作品もその伝統を受け継いだものと考えられています。また、ダヴィデの剣には「MACF」と読める文字が刻まれており、これは「ミケル・アンジェロ・カラヴァッジョ作」という意味の署名であると解釈されています。

解釈と背景

この作品は、1613年にはローマに存在していたことが記録されています。また、1650年の記録では、カラヴァッジョがゴリアテの顔に自画像を描いたと記されています。ダヴィデの顔は、若い頃のカラヴァッジョの自画像であるという説もありますが、カラヴァッジョの愛人であったチェッコ・デル・カラヴァッジョがモデルであるという説も存在します。

1985年、研究者のマウリツィオ・カルヴェージは、この作品がカラヴァッジョがローマ教皇パウルス5世の恩赦を得るために描かれたと提唱しました。カルヴェージは、カラヴァッジョがゴリアテとして、そしてダヴィデとして2度自画像を描いたと解釈し、ダヴィデとしてのカラヴァッジョは罰を与える道徳を、ゴリアテとしてのカラヴァッジョは罰を求めているとしました。この解釈は、現在でも広く受け入れられています。

しかし、この作品がカラヴァッジョの生前に枢機卿に贈られたとしても、なぜかカラヴァッジョの死後にナポリにあったという疑問も残ります。カラヴァッジョが最後にローマに戻ろうとした際に携行していた絵画リストにも、この絵画は含まれていません。ゴリアテの額の傷は、カラヴァッジョが負った傷を表しているという説もあり、この作品は画家の焦燥や苦悩が表出した自画像であると考えられています。カラヴァッジョの最後の作品は特定されていませんが、この作品は「呪われた画家」の絶筆としてふさわしいと評価されています。

参考文献

石鍋真澄『カラヴァッジョ　ほんとうはどんな画家だったのか』、平凡社、2022年
宮下規久郎『カラヴァッジョへの旅　天才画家の光と闇』、角川選書、2007年
大島力『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年

外部リンク

ボルゲーゼ美術館公式サイト、カラヴァッジョ『ゴリアテの首を持つダヴィデ』 (英語)
* Web Gallery of Artサイト、カラヴァッジョ『ゴリアテの首を持つダヴィデ』 (英語)

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