ゴルディアース

ゴルディアースは、古代フリギアの王としてギリシア神話にその名を残す人物です。同名の王が複数存在した可能性も指摘されており、ゴルディアス、ゴルディオス、あるいはゴルディウスとも呼ばれます。特に、金にまつわる伝説で知られるミダース王の父親としても語り伝えられています。彼はフリギアの首都とされるゴルディオンを建設した人物であり、また「ゴルディアスの結び目」という有名な故事の中心人物でもあります。

ギリシア神話によると、ゴルディアースが王位に就いた経緯には神託が関わっています。当時、フリギアの人々の間で権力争いが激化しており、誰を新たな指導者とするべきか神託を仰いだところ、「最初に出会った、車に乗っている人物を王とせよ」という答えが得られました。その神託を受けた者が最初に遭遇したのが、まさに車に乗ったゴルディアースだったのです。興味深いことに、ゴルディアース自身も以前にある占い師の女性から王となることを予言されていたと伝えられています。王位に就いた後、彼はこの占い師を后として迎えました。

王となったゴルディアースは、自身の名を冠した都市ゴルディオンを築きました。そして、自身が王となるきっかけとなった車を、非常に複雑で解くことが困難な結び目と共にゼウス神殿に奉納したとされています。彼はこの結び目について、「これを解いた者はアジアの王となるだろう」という予言を残しました。この「ゴルディアスの結び目」の故事は広く知られており、特に後世の歴史において象徴的な出来事として登場します。

紀元前334年の冬、東方遠征を進めていたアレクサンドロス大王がゴルディオンに立ち寄った際、この伝説の結び目に興味を示しました。そして、彼はこの解けないとされた結び目を、剣で一刀両断するという大胆な方法で「解いた」と伝えられています。この行動は、物理的に結び目を解くのではなく、既成概念にとらわれない解決策を見出すことのたとえとしても語り継がれています。アレクサンドロスはその後、実際に広大なアジアを支配し、予言が成就したと見なされました。

一方、古代ギリシアの歴史家ヘロドトスの著作『歴史』には、ゴルディオスという名のフリギア人が複数記録されています。ヘロドトスは、ミダース王の父としての一人のゴルディオスに言及するだけでなく、リディア王クロイソスの庇護を受けながらもその一人息子を誤って死に至らしめた人物アドラストスの父親もゴルディオスであったと記しています。さらに複雑なことに、アドラストスの系譜では、その祖父がミダス、曾祖父がゴルディオスであったとも伝えられています。また、デルポイに玉座を奉納したとされるミダース王（おそらく紀元前8世紀後半に実在した王）の父もゴルディオスであったとヘロドトスは伝えています。こうした記述から、古代にはゴルディオス（ゴルディアース）という名がフリギア王家で繰り返し用いられていた可能性が示唆されます。

神話上の存在であるゴルディアースと、ヘロドトスなどが伝える複数のゴルディオス、そして史実に登場するミダース王などを結びつけ、歴史的なフリギア王の系譜を推定する試みは、これまで多くの研究者によって行われてきました。かつては、ゴルディアースという名の王が歴史上4人存在したと推定されたこともあります。しかし、古代の限られた史料のみに基づいて正確な歴史像を再構築することには、多くの不確実性が伴います。

近年の研究では、フリギア王ミダースの年代や、彼とアッシリア史料に登場する「ムシュキの王ミタ」（紀元前709年頃）を同一視する説について再検討が加えられています。キンメリア人の侵攻によって自殺に追い込まれたとされるミダス（紀元前696年または679年）との同一性も疑問視されることがあります。こうした議論を踏まえると、ゴルディアースという名のフリギア王が、少なくとも紀元前700年頃に実在し、ある程度の勢力を持っていた可能性も考えられます。しかし、現時点では確固たる結論には至っておらず、ゴルディアースという存在は、神話上の伝説と、歴史的な人物像が複雑に intertwined（絡み合った）した状態にあると言えるでしょう。

もう一度検索