ゴーマニズム宣言スペシャル・天皇論追撃篇

『ゴーマニズム宣言スペシャル・新天皇論』

小林よしのり氏による漫画作品『ゴーマニズム宣言スペシャル・新天皇論』は、『ゴーマニズム宣言スペシャル・天皇論』の続編として、皇位継承問題をより深く掘り下げた作品です。『SAPIO』誌を中心に連載され、単行本化の際には大幅な加筆がなされました。本作は、女系天皇容認の立場を鮮明にし、男系継承に固執する論者への反論を展開しています。

概要

前作『天皇論』の内容を引き継ぎつつ、皇位継承問題、特に女系天皇の是非について焦点を当てています。小林氏は、女系天皇を認めることが皇位の安定的な継承につながると主張し、旧皇族の皇籍復帰には否定的です。また、男系継承を「因習」と捉え、日本の伝統とは言い難いと断じています。

内容

大御心について

小林氏は、歴代天皇や皇族の発言を引用し、「天皇の大御心は女系継承を望んでいる」と主張します。天壌無窮の神勅や昭和天皇、明仁上皇、美智子上皇后、徳仁天皇、秋篠宮文仁親王らの発言を根拠とし、女系継承を支持する立場を補強しています。

男系継承と伝統について

小林氏は、男系継承を日本独自の伝統とは捉えず、中国や朝鮮の家族制度を不十分に模倣した「因習」であると批判します。儒教に立脚した男系文化が日本に浸透したのは7世紀であると主張し、男系継承の歴史は浅いと指摘しています。

旧皇族の皇籍復帰について

旧皇族の皇籍復帰については、血縁の遠さを理由に否定的な見解を示しています。また、旧皇族の成員を「父の代から平民」と批判し、皇族としての資格を否定しています。

安定的な皇位継承について

小林氏は、直系重視の女系継承を認めれば、皇位は安定的に継承されると主張します。上皇后美智子さまや皇后雅子さまがバッシングを受けた事例を挙げ、悠仁親王が妃を見つけることの困難さを指摘し、皇室典範を改正して愛子内親王に皇位継承権を与えるべきだと主張しています。また、女系容認後の皇位継承順序については、直系優先・兄弟姉妹間長子優先を支持しています。

天照大神と皇位継承について

天照大神が女性神であることから、日本の天皇は女系だったと考えることもできると主張しています。また、神武天皇以降の男系継承の伝統を主張することは「神話と歴史の分断工作」と批判しています。さらに、現在の皇室は傍系継承の結果誕生したものであり、神武天皇の長男系が現在まで継続しているわけではないと指摘します。

秋篠宮家について

秋篠宮家の皇統継承に否定的な見解を示しており、秋篠宮文仁親王は天皇になるための教育を受けていないと主張しています。高齢での即位や在位期間の短さ、元号の短期間での変更などの懸念点を挙げ、皇太子徳仁親王から秋篠宮文仁親王への皇位継承を批判しています。

皇位継承の危機について

6世紀の武烈天皇が嗣子なく崩御した例を挙げ、現代は1500年ぶりの皇位継承の危機であると訴えています。

男系派との論争

小林氏は、男系存続派の問題点として「男系派3つの逃走点」を提示しています。しかし、男系存続派からの反論に対して明確な再反論はしておらず、議論の過程で質問内容の一部が変わってしまっている問題点も指摘されています。また、男系維持論者・支持者に対して「男系絶対主義者」「男系固執主義者」と批判し、個々の論者に対しても過激な言葉で批判しています。

その他

作品中では、男系派の論者を醜悪な姿にカリカチュア化し、批判の文脈で多用する傾向があります。また、Y染色体による男系の維持を主張する論に対して、猿人の姿で戯画化するなど、過激な表現も用いています。

書誌情報

『ゴーマニズム宣言SPECIAL 新天皇論』小学館、2010年 12月15日。ISBN 978-4-09-389733-4

掲載誌初出

『SAPIO』（小学館）2009年9月30日号 - 2010年 11月24日号
『女性セブン』（小学館）2009年8月6日号
『WiLL』（ワック・マガジンズ）2010年5月号、8月号、10月号、12月号、2011年1月号