ゴーム老王

ゴーム老王：デンマーク王国の礎を築いた伝説の王

ゴーム老王（Gorm den Gamle）は、10世紀前半にデンマークを治めた王であり、その名は「老王」を意味します。彼はイェリングを拠点とし、ユラン半島からフュン島にかけての地域を支配しました。彼の業績は、後のデンマーク王国の基礎を築いたことで知られています。また、現代のデンマーク王室、ノルウェー王室、スペイン王室、イギリス王室の祖先にあたる人物としても重要です。

生涯と事績

ゴーム老王はイェリング王権の開祖とされていますが、彼の出自や具体的な事績については史料が乏しく、不明な点も多いです。9世紀から10世紀にかけて、デンマークには「オーラヴ家」が勢力を持っていましたが、ゴーム老王は別の出自であると考えられています。彼が権力を握る過程で、オーラヴ家のグヌーパが東フランク王に敗北し、貢納と洗礼を受け入れたという歴史的な出来事がありました。その後、シグトリュグが王位を継承しましたが、ノルマン人のハルデゴンによって王国を奪われたとされています。このハルデゴンをゴーム、またはその父親とする見方が一般的です。

ゴーム老王は、ブレーメンのアダムによる『ハンブルク司教事績録』にも記述があります。同書によれば、918年から936年まで大司教であったウンニがゴームに布教を試みましたが、彼の野蛮さのために失敗したとされています。この記述から、936年頃にはゴームが外部からも交渉対象者として認知されていたことが分かります。

妻チューラとルーン石碑

ゴーム老王にはチューラ（テューラとも）という名の妻がいました。彼女の出自ははっきりしていませんが、『デンマーク人の事績』には「イングランドの王女」であったとの記述もあります。イェリングには、ゴームがチューラを讃えたルーン石碑が現存しており、そこには「王ゴームは、デンマークの誉れであるその妻チューラを記念してこの碑を建立した」と刻まれています。この石碑は世界遺産「イェリング墳墓群」の一部として保護されています。

この石碑に刻まれた「デンマーク」という言葉は、従来、中世デンマーク王国を指すとされていましたが、近年の研究では「デーン人の辺境」と解釈されることもあります。この解釈によれば、チューラはデンマーク東部の豪族の娘であり、ゴーム家側から「デーン人の辺境の誉れ」と評されたとされています。ゴーム老王は、チューラとの婚姻を通じて権力基盤を強化し、デンマーク史上初めて領域性を持った国家を建設したと考えられます。この強固な権力基盤は、息子ハーラル青歯王の治世へと引き継がれ、デンマークの発展の礎となりました。

遺骨と没年

イェリング墳墓群からは、ゴーム老王の可能性がある遺骨が発掘されています。この遺骨が発見された場所の支え木の伐採年代から、ゴーム老王の没年は958年から959年の冬と推定されています。遺骨の推定身長は173cm、年齢は30代から50代であり、死因は特定されていません。

現在の王室との繋がり

ゴーム老王の子孫であるグリュックスブルク家は、現在のデンマーク王国とノルウェー王国の王家です。また、一族からはギリシャの国王も出ています。スペインのフェリペ6世の母であるソフィア王妃、イギリスのチャールズ3世の父であるエディンバラ公フィリップも、それぞれグリュックスブルク家の分家や縁者にあたります。このように、ゴーム老王は現代のヨーロッパ王室に大きな影響を与えています。

逸話

サクソ・グラマティクスによる『デンマーク人の事績』には、ゴーム老王に関する逸話が残されています。ゴームはあるとき、2羽のハヤブサを飼っている夢を見ました。ハヤブサたちは腕から飛び立っては戻りを繰り返していましたが、大きなハヤブサが戻らず、小さなハヤブサだけが翼を血に染めて戻ってきたという夢でした。

その後、ゴームとチューラにはクヌーズとハーラルという二人の息子が生まれました。ゴームはクヌーズを愛していましたが、ハヤブサの夢を恐れて「クヌーズの死の知らせをもたらすものは殺す」と宣言しました。時が経ち、クヌーズが戦死したという知らせがチューラに届きました。チューラは広間に黒い服を飾り、ゴームを待ちました。ゴームが部屋に入ってくると、チューラはゴームの服を脱がせ、喪服を着せました。ゴームが「私にクヌーズの死を知らせるのはお前か？」と尋ねると、チューラは「それを口にしたのはあなたであり、私ではありません」と答えたという話です。この逸話は、ゴーム老王の性格や、彼の息子への愛情、そしてチューラの賢さを物語るものとして伝えられています。


ゴーム老王は、デンマークの歴史において重要な人物であり、彼の足跡は今もなお、多くの人々に語り継がれています。

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