ゴールデンエイジ・ヒップホップ

ゴールデンエイジ・ヒップホップ：音楽史における黄金期

ゴールデンエイジ・ヒップホップは、ヒップホップ音楽の歴史において、オールドスクールに続く全盛期を指します。日本ではミドルスクールと呼ばれることもありますが、世界的にはゴールデンエイジという言葉が一般的です。この時代は、1980年代半ばのRun-D.M.C.、UTFO、LL Cool J、Houdiniらの登場から、1990年代初頭のG[[ファンク]]の台頭までを指します。

概要

この時代の大きな特徴は、ソウル、R&B、ファンク（特にジェームス・ブラウンやPファンク）のサンプリングを多用したサウンドと、アフリカ中心主義的なライムです。ニューヨークなどの東海岸を拠点としたラッパーたちが、ラップの芸術性を高め、知的で洒落た言葉遊びや効果的なライム、サンプリングを駆使したサウンドを追求しました。ジュース・クルー・オールスターズ、ラキム、KRS-One、チャックDなどがその代表格です。

さらに、デ・ラ・ソウル、ア・トライブ・コールド・クエスト、ブラック・シープ、リーダー・オブ・ザ・ニュースクールといったグループは、社会に対する深い理解を反映させた思想的な作品を制作し、後のコンシャス・ヒップホップの先駆けとなりました。この時代から、数多くの新たなスタイルが生まれていき、ラップの進化はニューヨークのみならず、フィラデルフィア、ニュージャージー州、シカゴ、そして1980年代後半には西海岸カリフォルニア州、南部へと広がっていきました。

また、この時期には、地元の黒人音楽を代表するラッパーを育成する基礎が確立されました。例えば、テキサス州のゲトー・ボーイズのスカーフェイスやUGKなどは、この時期にその才能を開花させ、後の成功の基礎を築きました。さらに、デフジャムがシュガーヒルやエンジョイに続くインディーズレーベルとして設立され、パブリック・エネミーやLLクールJの活躍により成長を遂げました。デフジャムはその後、メジャーレーベルであるコロンビアの配給を受けるようになりました。

歴史

東海岸の隆盛

ヒップホップの人気が高まるにつれて、新しいスタイルや様式が次々と登場しました。Run-D.M.C.は、エアロスミスの「ウォーク・ディス・ウェイ」で共演し、ロックとヒップホップの融合を先導しました。また、1985年には女性トリオのソルト・ン・ペパが「ショウストッパ」を発表しました。1980年代後半には、西海岸のアイスTが「パワー」などのアルバムを発表し、ギャングスタラップの先駆けとなりました。1987年にはパブリック・エネミー、翌年にはブギー・ダウン・プロダクションズがデビューし、ラディカルで政治的な作品を世に送り出しました。

1988年と89年には、ネイティブ・タン一派がアルバムを発表し、意識の高いヒップホップが登場しました。彼らの楽曲はジャズの要素を取り入れ、多様で風変わり、かつ政治的な詩をのせました。また、1970年代から活動していたアフリカ・バンバータによるズールー・ネーションのアフリカ中心主義思想も大きな影響を与えました。1988年にパブリック・エネミーが発表した2枚目のアルバムは、当時のヒップホップアルバムとして高く評価され、無機質なトラックと過激な政治的歌詞の組み合わせが、それまでのヒップホップにはない新しいスタイルを生み出しました。

黒人の誇りと政治意識

この時代には、ヒップホップを通じて黒人の自尊心、民族団結、自己覚醒を高めようとする動きが活発になりました。パブリック・エネミー、クール・モー・ディー、Xクラン、ブギー・ダウン・プロダクションズなどは、アメリカの社会・政治状況に対する不満を表明し、それが黒人社会に与える影響を問題視しました。ラキム、ビッグ・ダディ・ケイン、プア・ライチャス・ティーチャーズ、ブランド・ヌビアンなどの5%ネーションに所属するムスリム・ラッパーたちは、その教義をライムの中で伝えました。

また、ヒップホップは暴力廃絶運動である「ストップ・ザ・ヴァイオレンス・ムーブメント」を展開し、KRS-Oneが中心となり、MCライト、パブリック・エネミー、ヘビーD、クール・モー・ディーらと共に「セルフディストラクション（自滅）」という楽曲を制作しました。

1980年代中頃まで、ヒップホップ界で活躍する女性は少数でしたが、ロクサーヌ・シャンテが「ロクサーヌリベンジ」を、ソルト・ン・ペパが「ショーストッパ」を発表して以来、女性ラッパーたちが男性中心の市場で活躍するようになりました。MCライト、クイーン・ラティファ、モニー・ラブなどの女性ラッパーがシングルやアルバムを発表し、ラジオでオンエアされるようになりました。

ニュー・スクールの誕生

この時期には、新たなジャンルであるニュースクールが確立され、人気を集めました。ネイティブ・タン一派、ア・トライブ・コールド・クエスト、デ・ラ・ソウル、ブラック・シープ、ジャングル・ブラザーズ、ステッツァソニックなどが、このスタイルを確立しました。また、ディガブル・プラネッツやギャング・スター、アス3によってジャズ・ラップも登場し、ダグEフレッシュやビズ・マーキーなどの活躍でヒューマンビートボックスの人気も高まりました。

この時期の重要なアーティストとして、マーリー・マールのコールド・チリン・レコードに集結した「ジュースクルー」が挙げられます。ビッグ・ダディ・ケインは流暢なファスト・ラップとセクシーな魅力で、クールGラップは複雑な言葉運びで頭角を現しました。また、ユーモアあふれるビズ・マーキー、ブギー・ダウン・プロダクションズとのビーフを繰り広げたマスタ・エース、MCシャンなども活躍しました。現在のラッパーの中にも、ケインやクールGラップをリスペクトする者は多く存在します。

西海岸Gラップの隆盛

ニューヨークを中心とする東海岸がヒップホップの中心であった一方、ロサンゼルスを中心とする西海岸は、ヒップホップをさらなる表舞台へと導きました。アフリカ色が強く政治的な東海岸のラッパーに対し、トーン・ロック、ヤングMC、サー・ミックス・ア・ロット、MCハマーなどの西海岸のラッパーは、ポップ・ラップの基盤を築きました。しかし、ギャングスタ・ラップが成熟するにつれ、ギャング抗争、警察の蛮行、薬物、貧困といった社会の暗部が浮き彫りになりました。N.W.A.が「ストレイト・アウト・コンプトン」で脚光を浴びたとき、彼らはアメリカの貧民街の過酷な現実を露わにしました。これは、ブギー・ダウン・プロダクションズ、ジャスト・アイス、パブリック・エネミーといった東部のハードコアヒップホップとは異なるアプローチでした。

東海岸のラップでは、性的表現は巧みな言葉回しほど重視されず、不快または不適切と見なされることもありました。しかし、アイス・キューブのように東海岸と同様の政治的なラップを行うラッパーも存在し、彼は1990年代初めに商業的な成功を収めました。2パックもギャングスタ・ラップに移行する以前は、政治的・社会的問題についてラップしていました。この西海岸の新たな潮流は、ラップの複雑な流れよりも、衝撃的な表現や毒舌に焦点を当てており、MTVの「Yo! MTV Raps」やBET「Rap City」などの番組で西海岸のミュージックビデオが頻繁に放映されるようになりました。

南部ラップの台頭

南部では、重低音が特徴のマイアミベースが、エレクトロホップや他のヒップホップに影響を受けたダンス音楽から発展しました。ルーサー・キャンベルや彼のグループである2ライブ・クルーなどが代表的な存在です。1989年の「ナスティ・アズ・ゼイ・ワナビー」の発売で、2ライブ・クルーはアメリカ国内で大ヒットを記録しました。しかし、マイアミベースは南部ラップの一形態に過ぎず、クラブ志向の強い音楽性は、ヒップホップのコアなファンからはそれほど重視されませんでした。

南部のヒップホップが台頭するまでには時間がかかりましたが、ゲトー・ボーイズなどが頭角を現し、西海岸のヒップホップと同様に、南部ヒップホップも全盛期への道を歩み始めました。やがて、マスターPやスリー6マフィアなどが南部ラップを大きく盛り上げていきました。

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