ゴールデンバット

ゴールデンバット：116年の歴史に幕を閉じた国民的たばこ

1906年（明治39年）9月、日本専売公社の前身である大蔵省専売局によって発売された「ゴールデンバット」。通称「バット」として親しまれ、2022年12月、116年の歴史に幕を閉じました。本稿では、その歴史、特徴、そして数々の逸話を紐解きます。

長きにわたる歴史と愛され続ける理由

ゴールデンバットは、発売当初から爆発的な人気を得たわけではありませんでした。しかし、等級の低い葉を使用することで低価格を実現したことが、そのロングセラーの鍵となりました。特に低所得者層を中心に、長年にわたり多くの人々に愛されてきました。

発売から100周年を迎えた2006年には、その歴史の長さを物語る節目を迎えました。その後も、時代に合わせてパッケージデザインや商品の仕様変更が行われながらも、その根強い人気は衰えませんでした。

2016年には110周年を迎え、フィルター付きの製品が登場。タールとニコチンの値も変更され、時代の変化に合わせた改良が施されました。しかし、たばこ税の軽減措置の縮小・廃止により、2018年には価格改定が行われ、最終的には2019年10月以降、在庫限りでの生産終了が発表されました。

2019年からは北海道限定でリトルシガー版「ゴールデンバット・シガー」が販売されましたが、それも2022年11月に銘柄廃止となり、長く愛されたゴールデンバットの歴史に完全に終止符が打たれました。

特徴的なパッケージとデザイン

灰緑色の地に金色のコウモリをあしらった、古風で印象的なパッケージデザインは、広く知られています。東京高等工藝学校の教員、宮下孝雄氏によるデザインという説もあれば、青森県弘前市の根岸源司氏によるデザインとする説もあり、いまだに議論の余地が残されています。

発売当時を基本としたデザインは、近年ではその懐古的なデザインが再評価されるまでに至りました。しかし、2005年には健康への警告文を記載するため、パッケージデザインが大幅に変更され、銀紙に札付きのパッケージとなりました。同時にたばこ本体も、一般たばこと同等の太さに変更されています。

文豪も愛した銘柄

ゴールデンバットは、多くの文豪にも愛された銘柄として知られています。芥川龍之介、太宰治、中原中也といった著名な作家たちが愛煙家であったことは有名です。

内田百閒は高級たばこを好んで吸っていたにも関わらず、「たまに吸いたくなる」銘柄としてゴールデンバットを挙げています。南方熊楠に至っては、ゴールデンバットの空箱を粘菌の標本入れとして利用していたという逸話も残されています。

戦時下の変遷と逸話

太平洋戦争前後の時期には、「ゴールデンバット」の名称が敵性語とみなされ、「金鵄（きんし）」という名称に変更されました。戦時中のたばこ類の値上げを題材にした替え歌が作られるほど、人々の生活に密着した存在であったことを示しています。

戦時中の混乱期には、包装用箱の製造が困難になったため、ばら売りも行われました。空箱や煙草入れの持参が呼びかけられるなど、当時の社会情勢が垣間見えるエピソードも残されています。戦後初の宝くじの発売時には、外れくじと交換できる制度も設けられました。

俗説と現実

ゴールデンバットは、安価なことから「屑たばこを集めて作られた」という俗説も存在します。しかし、これは上級煙草に使用しないたばこ葉脈が主な原料であるため、風味が一定せずバラつきが生じているということが、その原因であるとされています。

派生商品と製品一覧

1997年にはフィルター付きのボックスタイプが発売されました。また、2004年には宮城県限定で紅茶風味とカシス風味のメンソールタイプが発売されましたが、いずれも短期間で販売終了となりました。

2019年には北海道限定でリトルシガーが発売されたものの、2022年に販売終了となりました。

ゴールデンバットの遺産

長きにわたり愛されてきたゴールデンバットは、日本のたばこ文化を象徴する存在でした。その歴史と文化的な意義は、これからも語り継がれていくことでしょう。安価で親しみやすく、多くの文豪にも愛されたゴールデンバットは、日本のたばこ史に大きな足跡を残しました。

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