サイゴン条約

サイゴン条約（1862年）

サイゴン条約は、1862年に阮朝ベトナムとフランス第二帝政の間で締結された条約で、壬戌条約とも呼ばれます。この条約は、後の1874年に結ばれた条約と区別するために、第1次サイゴン条約とも称されます。

条約締結の背景

1847年に即位した阮朝の嗣徳帝は、キリスト教への弾圧を強化しました。その結果、1848年から1860年の間に、ベトナム在住のヨーロッパ人宣教師25人、ベトナム人宣教師300人、そして信徒3万人が殺害されました。

このような状況の中、1858年にフランスとスペインは、スペイン人宣教師2名の処刑を理由にツーラン（現在のダナン）に軍を派遣しました。その後、フエの攻略を試みましたが、うまくいかず、コーチシナのサイゴンを本格的に攻撃することに方針を転換しました。1861年には、フランスが提示した講和条件を阮朝が拒否したため、フランス軍はビエンホアを占領するなど軍事行動を継続し、軍艦をフエに向かわせました。その結果、1862年3月までにサイゴンからメコン川下流地帯（ビエンホア、ビンロン）を占拠しました。

このような状況下で、阮朝はファン・タン・ジャンとラム・ズイ・ヒエップを中心とする使節団をサイゴンに派遣し、1862年6月5日にサイゴン条約が締結されました。

条約の内容

サイゴン条約によって、ベトナムは以下のような多くの譲歩を余儀なくされました。

領土の割譲: フランス海軍が占領していたベトナム南東部の3省（ザーディン省、ビエンホア省、ディンツォン省）がコーチシナとして事実上フランスの植民地となりました。さらに、サイゴン、ビエンホア、ミトとコンダオ島もフランスに割譲されました。
開港: ツーラン（ダナン）、バラット、クァンイエンの3港が開港されました。
キリスト教布教の自由: ベトナム全土におけるキリスト教布教の自由が認められました。
賠償金の支払い: 阮朝はフランスに対して400万ドルの賠償金を支払うことが義務付けられました。
メコン川の開放: メコン川がフランスに開放されました。
領事館の設置と駐兵権: フランスはベトナムに領事館を設置し、駐兵する権利を得ました。
外交権の制限: グエン朝の外交権もフランスの規制を受けることとなりました。

この条約は、全12項目からなり、ベトナムにとって非常に不利な内容が含まれていました。特に領土の割譲は、ベトナム南部のフランスによる植民地化を決定づけるものでした。また、メコン川の開放は、その後のフランスによるインドシナ支配の足がかりとなりました。

条約の影響

サイゴン条約は、ベトナムにとって非常に大きな打撃となりました。国土の一部を失っただけでなく、外交権や経済的な自立性も奪われ、植民地化への道を歩むこととなりました。また、この条約は、その後のフランスによるベトナム支配の基礎となり、ベトナム国民の民族意識を高める要因の一つともなりました。

参考文献

桜井由躬雄、石沢良昭著　『世界現代史7　東南アジア現代史Ⅲ』　山川出版社、1995年

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