嗣徳帝

阮朝の悲劇を体現した皇帝：嗣徳帝の生涯

嗣徳帝（しとくてい、Tự Ðức、1829年9月22日 - 1883年7月19日）は、阮朝の第4代皇帝として1847年から1883年まで在位しました。彼は、阮福洪任（Nguyễn Phúc Hồng Nhậm）として生まれ、後に阮福時（Nguyễn Phúc Thì）と改名しました。紹治帝の次男として生まれた彼は、18歳という若さで皇帝の座に就きました。

儒教を重んじた文人皇帝

嗣徳帝は、儒教の思想を深く尊ぶ文人としても知られています。彼の治世は、フランスとの関係が複雑に絡み合った時代でした。当初、フランスは1787年の仏安条約以降、安南王嘉隆帝と協調関係を維持していましたが、嘉隆帝の死後、両国の関係は徐々に悪化しました。嗣徳帝の即位の頃には、国内でキリスト教に対する排斥運動が高まっていました。

1851年3月21日、嗣徳帝は内外のキリスト教宣教師を排斥する旨を表明し、国内の多くのキリスト教寺院が破壊されました。この措置に対し、フランスのナポレオン3世は1856年9月にフランス人宣教師の保護と港の割譲を求めましたが、嗣徳帝はこれを拒否し、両国の対立は一層深まりました。

コーチシナ戦争と条約締結

1858年、フランス・スペイン連合軍がダナンに侵攻し、その後サイゴン、ビエンホア、バリア、ヴィンロンといった主要都市を占領しました。このコーチシナ戦争は、トンキン地方で発生した飢饉と反乱によって混乱していた阮朝をさらに追い詰めました。1862年、阮朝はフランスとの間で壬戌条約（第1次サイゴン条約）を締結し、コーチシナ東部三省（辺和、嘉定、定祥）と崑崙島の割譲、2000万フランの賠償金支払い、そしてキリスト教と通商の自由化を認めざるを得なくなりました。

国内の動向から排仏運動を支持したものの、最終的にはフランスの圧力に屈した嗣徳帝。フランスはカンボジアを保護領とし、コーチシナ西部三省を奪いました。1867年6月には、フランス軍提督の安南入りを許すという屈辱を味わいました。

黒旗軍との対立、そして清仏戦争へ

その後、太平天国の系統を引く呉亜終率いる黒旗軍が侵入し、フランス軍との間で戦闘が始まりました。1882年には、黒旗軍とコーチシナから出兵したフランス軍との間で戦闘が激化し、嗣徳帝の救援要請を受けた清朝も出兵し、清仏戦争へと発展しました。しかし、1883年7月、嗣徳帝は在位中に崩御しました。

混乱と阮朝の終焉

嗣徳帝の死後、阮朝は深刻な混乱に見舞われました。甥の育徳帝は後継者の地位を剥奪され、代わりに協和帝が擁立されましたが、彼は重臣によって毒殺されました。その後、建福帝が即位するも、在位わずか半年で崩御し、弟の咸宜帝が即位するという、短期間での皇帝の交代が繰り返されました。この混乱の中、清仏戦争はフランスの勝利に終わり、阮朝はフランスの保護国として存続することとなりました。

嗣徳帝の治世は、国内の混乱と外国の圧力に翻弄された時代でした。彼は儒教を重んじ、キリスト教の排斥を試みましたが、最終的にはフランスの勢力に屈し、阮朝の衰退を招くこととなりました。彼の生涯は、激動の時代における一人の皇帝の苦悩と、その後の阮朝の悲劇を象徴するものと言えるでしょう。

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