サカサマのパテマ

『サカサマのパテマ』は、アニメーション監督である吉浦康裕が、原作、脚本、監督の全てを手がけた2013年公開の長編日本アニメーション映画作品です。現実とは異なる独自の重力設定を持つ世界を舞台にしたサイエンス・ファンタジーとして、公開当時大きな注目を集めました。

作品概要と評価

本作は、室内を主な舞台とした前作『イヴの時間』から一転し、「外の世界」を広大に描くことをテーマに制作されました。当初の公開予定が変更された後、2013年11月9日に日本で公開されると、観客や評論家から高い評価を獲得します。特に、ぴあによる公開初週の映画満足度ランキングで第1位を記録。さらに、第17回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞したほか、海外でもスコットランド・ラブズ・アニメ2013で観客賞と審査員賞をダブル受賞、第7回アジア太平洋映画賞の最優秀アニメーション映画賞にノミネートされるなど、国内外で広くその質の高さが認められました。

物語のあらすじ

物語の舞台は、かつて地上で発生した大災害により重力が逆転してしまった人々が暮らす地下世界と、その事実や「空」を罪深く不浄なものとして徹底的に忌み嫌う思想教育がなされている地上世界「アイガ」に分断されています。アイガでは、空へ落ちる者は罪人であると教えられています。

そんなアイガで暮らす少年エイジは、厳格な管理体制に支配された社会に疑問を抱き、密かに空を見上げる日々を送っていました。ある日、彼はアイガでは決して存在するはずのない、サカサマになってフェンスにしがみつく少女パテマと出会います。パテマは、重力が逆転した地下世界の住人であり、行方不明となった友人のラゴスを探して地下を探検するうちに、偶然アイガへと「落ちてきて」しまったのです。

手を離せばアイガの空へと吸い込まれてしまうパテマを、エイジは危険を冒して匿い、助けようとします。しかし、サカサマ人の出現を察知したアイガ君主イザムラは、直属の治安警察に徹底的な捜索を命じます。エイジはパテマを連れて逃亡を図りますが、パテマは捕らえられ、イザムラのもとへ連行されてしまいます。イザムラはパテマに対し、過去に人類が重力をエネルギーに変換しようとした実験の失敗こそが大災害を引き起こし、多くの人々が空へ「落ちて」犠牲になったこと、そして運良く生き残った人々が地下へ潜りサカサマ人となった真実を語ります。アイガに侵入したサカサマ人は死あるのみと告げたイザムラは、パテマが探し求めていたラゴスが既に命を落とし、保存液に浸けられている変わり果てた姿を見せつけます。

その頃、エイジのもとに、パテマを追って地下世界からやってきた青年ポルタが合流します。二人は協力してパテマが監禁されている塔への救出作戦を決行しますが、救出の直前にイザムラと治安警察隊長ジャクに見つかってしまいます。その場でイザムラは、かつて空を目指したエイジの父エイイチの死が、単なる事故ではなく暗殺であったという衝撃の事実を明かします。緊迫した状況の中、ジャクがエイジに銃を向けたその瞬間、足枷をつけられたパテマは決死の覚悟でエイジに飛びつきます。二人は重力の影響で、アイガの地上から空へと向かって激しく「落下」を開始します。

永遠に空へ落ち続けるかと思われた二人でしたが、やがて眼下には広大な地面と、そこに設置された無数の機械装置が広がっていることに気づきます。緩やかに着地した二人が見つけたのは、エイジの父が最期に乗っていた飛行船でした。船内に残された記録から、エイジの父とラゴスが協力して世界の秘密を探求していた事実を知ります。

エイジはパテマを彼女の地下世界へ帰すため、飛行船でアイガへ帰還し、そのまま地下世界へのルートを目指します。追跡してきたイザムラとの激しい揉み合いの末、イザムラは地下深くに空いた穴へとさらに落下していきます。しかし、その穴の先にあったのは、崩壊した高層ビル群と、そして本物の青い空でした。本物の地上に立ちながらも、重力が逆転しているためにパテマに支えられているエイジは、パテマと共に新しい世界の光の中へと一歩を踏み出していくのでした。

主な登場人物と世界観

本作の物語を牽引する主要キャラクターは、好奇心旺盛で天真爛漫な地下世界の少女パテマ、管理されたアイガ社会に反発心を抱く地上の少年エイジ、パテマを深く案じる地下世界の青年ポルタ、地下世界の掟を重んじるパテマの育ての親であるジィ、そしてアイガ君主国を独裁的に支配しサカサマ人を敵視するイザムラ、その忠実な部下でありながらイザムラのやり方に疑問を抱くジャクなどがいます。

物語の根幹にあるのは、過去に人類が重力エネルギー変換実験に失敗したことで発生した大災害です。これにより重力が逆転した人々は地下での生活を余儀なくされ、重力が逆転しなかった人々は地上にアイガ君主国を築き、徹底した思想教育と管理体制を敷いています。アイガの治安維持を担う治安警察は、黒いコートとマスクをまとい、地下世界の人々からは「コウモリ人間」と呼ばれ恐れられています。

制作スタッフ・音楽・関連展開

本作の監督、脚本、原作は全て吉浦康裕が手がけ、緻密な世界観と物語を構築しました。音楽は大島ミチルが担当しており、その主題歌「Patema Inverse」は、エスペラント語の歌詞とフランス人アーティスト、エステル・ミショーの歌唱によって、作品が持つどこか懐かしくファンタジックな雰囲気を一層引き立てています。

映画本編の序章にあたるエピソードは、配信アニメ『サカサマのパテマ Beginning of the day』として2012年に先行公開され、物語への導入となりました。また、toi8によるアナザーストーリー漫画『サカサマのパテマ another side』も「月刊ビッグガンガン」で連載され、本編とは異なる視点から作品世界が描かれています。

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