サテン・ドール

「サテン・ドール」（Satin Doll）は、ジャズの歴史に燦然と輝く不朽のスタンダードナンバーです。

この楽曲は、ジャズ界を代表するバンドリーダーであり作曲家であるデューク・エリントンと、彼の長年の共同作業者であったビリー・ストレイホーンによって生み出されました。1953年に作曲され、同年にエリントン楽団自身の手によってインストゥルメンタル（歌詞のない器楽曲）として初めて録音されています。この器楽版が広い人気を得た後、当時著名な作詞家であったジョニー・マーサーが、その美しいメロディに言葉を添えました。マーサーは、既に確立された楽曲に後から歌詞をつけるという依頼を受ける機会が多く、「サテン・ドール」もまた、インストゥルメンタル版の成功を受けて歌詞が追加された例の一つです。

楽曲の大きな特徴の一つは、その和声進行にあります。ポピュラー音楽の中ではやや非定型ともいえる独特のコード展開を持ち、特に曲の冒頭で用いられるii-V-I進行は、ジャズの基礎的ながらも洗練された響きを生み出しています。この和声的な奥行きが、多様なハーモニーの解釈やアドリブ演奏の可能性を広げ、多くのジャズミュージシャンを惹きつける要因となっています。

「サテン・ドール」は発表から間もなくジャズ界の定番曲としての地位を確立し、以来、数えきれないほどのアーティストによって演奏、録音されてきました。ジャズボーカルの女王であるエラ・フィッツジェラルドによる情熱的な歌唱や、洗練されたオーケストラによる演奏、あるいはテリー・キャリアーやナンシー・ウィルソンといった多様なジャンルのアーティストによる解釈など、その録音は多岐にわたります。また、デューク・エリントン自身も、自身のコンサートの最後にこの曲を演奏することが多く、聴衆に強い印象を与えました。

著名な録音としては、作曲者自身による1953年の初期録音に始まり、1961年のエラ・フィッツジェラルドによるライブ盤、1963年のマッコイ・タイナーによるピアノトリオバージョン、シカゴによるポップ/ロックアレンジ（1974年）など、時代やスタイルを超えた様々な演奏が存在します。日本のアーティストでは、笠井紀美子がギル・エヴァンス・オーケストラと共演したバージョン（1972年）も特筆されます。これらの多種多様な演奏形態は、「サテン・ドール」が持つ普遍的な魅力と、ジャンルや時代を超えて多くの音楽家を受け入れる懐の深さを示しています。

今日においても、「サテン・ドール」はジャズセッションの定番曲として、また多くのライブやコンサートで演奏され続けています。その優雅でメロディアスな旋律と、ジャズらしい複雑かつ魅力的な和声は、聴く者を惹きつけ、演奏する者にインスピレーションを与え続けます。まさに、滑らかな絹（サテン）のような光沢を持つこの曲は、ジャズという音楽ジャンルが持つ洗練と魅力を体現する一曲と言えるでしょう。時代が移り変わっても、この名曲の輝きが失われることはありません。

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