サトームセン

かつて日本の家電小売業界で一時代を築いたサトームセン株式会社は、残念ながら現在はその姿を消しています。主に首都圏で家電量販店チェーンを展開していましたが、経営状況の悪化を経て、最終的にはヤマダ電機（現在のヤマダホールディングス）のグループに入り、2013年 5月31日をもって法人として完全に消滅しました。その事業活動は2008年 7月15日に停止されており、企業としての終焉は段階的に訪れました。

創業と発展の軌跡

サトームセンの歴史は、1946年5月に佐藤暢夫氏が設立した佐藤無線研究所に遡ります。当初は電子部品を扱っていましたが、1948年8月には株式会社化され、佐藤無線株式会社として新たなスタートを切りました。特に1950年代には、『クライスラー』というブランド名で展開した、インダストリアルデザイナーを起用した斬新なデザインのラジオキャビネット（ラジオキット）の製造販売によって大きく成長し、この分野で確固たる地位を確立しました。その後、事業の軸足を家電品の小売へと移していきます。社名については、1972年1月にサトー無線株式会社へ、そして1975年10月には広く知られるサトームセン株式会社へと変更されました。

全盛期と秋葉原での存在感

最盛期を迎えた頃のサトームセンは、電気街として知られる秋葉原に本店を含む最大8店舗を展開し、関東地域有数の家電量販チェーンとしての存在感を示していました。多くの人々が秋葉原での家電購入と言えばサトームセンを思い浮かべたものです。そのキャッチコピーには「確かな物を、確かな店で」という信頼性を訴求するものから、「あなたの近所の秋葉原」「秋葉原の大型電器店」といったように、郊外店舗で「秋葉原」のイメージを強く打ち出すものが多く見られました。

経営悪化とグループ再編

しかし、バブル崩壊後の長期にわたる経済低迷や、パーソナルコンピューター販売の不振、そしてヨドバシカメラの進出やヤマダ電機のような郊外型大型量販店の台頭といった市場環境の変化は、サトームセンの経営を圧迫しました。多くの不採算店舗が閉鎖され、2003年1月から2004年3月にかけては、秋葉原の店舗を含む20店が閉店しました。経営再建を目指し、2005年4月にはマツヤデンキとの提携が実現し、この時をもって創業家である佐藤一族は経営の第一線から退きました。同年7月には新生銀行系の投資ファンドの傘下に入り、経営体制の刷新やコスト削減を進めます。組織文化にも変化が訪れ、約60年間続いたと言われるノンマニュアル主義や従業員の制服がない制度が2006年1月に改められました。さらに、マツヤデンキ、星電社との連携を深め、2006年 10月1日には3社共通の持ち株会社であるぷれっそホールディングスの傘下に入る形で経営統合を果たしました。

ヤマダ電機グループ傘下へ、そして消滅

ぷれっそホールディングス設立からわずか1年足らずの2007年 6月29日、親会社となったぷれっそホールディングスそのものがヤマダ電機の完全子会社となります。これによりサトームセンはヤマダ電機グループの一員となりました。この傘下入りに伴い、店舗戦略が大きく転換され、2007年 11月11日に象徴的な秋葉原駅前1号店が閉鎖・転換されたのを皮切りに、既存の全店舗が順次ヤマダ電機のブランドへと切り替えられました。2007年末までには「サトームセン」の屋号を掲げる店舗はすべて姿を消し、秋葉原における一般家電販売からも撤退しました。店舗としての営業は終了しましたが、企業体としては存続し、当初は資産管理会社としての役割を担いました。しかし、2013年 5月31日をもって、ヤマダ電機に吸収合併される形で法人としての実体を失い、ここに67年に及ぶサトームセンの歴史に完全に幕が下ろされたのです。サトームセンの本拠地であった秋葉原からも、2020年8月に最後のサトームセン跡地の店舗が閉店したことで、完全に撤退しました。

記憶に残るCMソング

サトームセンと言えば、耳に残るCMソングを思い出す人も多いでしょう。作詞は伊藤アキラ氏、作曲は長沢ヒロ氏が手掛けたその曲に合わせ、ジャガーを擬人化したキャラクター「じゃがお」「じゃがこ」が登場するテレビコマーシャルは、特にローカルCMとして多くの人々に親しまれました。このCMソングは店頭でも繰り返し流され、後年にはコンピレーションアルバムに収録されたり、通信カラオケで歌えるようになったりと、その存在は企業の消滅後も語り継がれています。

サトームセンは、ラジオキット製造から家電量販へと事業を転換し、秋葉原を代表する存在として多くの人々の家電購入を支えましたが、時代の波と競争の激化の中でその幕を閉じました。その歴史は、日本の家電小売業界の変遷を示す一例と言えるでしょう。

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