サド侯爵夫人

『サド侯爵夫人』は三島由紀夫が1965年に発表した戯曲で、全3幕で構成されています。この作品は夫であるサド侯爵の出獄を二十年間も待ち続けた貞淑な妻・ルネの愛と苦悩を描きつつ、彼女を取り巻く女性たちの対話によってその人物像を浮かび上がらせています。サド侯爵の印象は悪徳と理解されていましたが、彼を愛し続けるルネの矛盾した思いが作品の主題となっています。女性6人だけが登場する本作は、登場人物の対話を通じて美や悪の多面性を探求し、特にフランスでの独自の人気を誇ります。

発表経過

『サド侯爵夫人』は1965年の『文藝』11月号に掲載され、同年には河出書房新社から単行本として刊行されました。初演は1965年11月14日から29日まで劇団NLTと紀伊國屋ホールで行われ、丹阿弥谷津子らが演じて観客を魅了しました。この作品は昭和40年度芸術祭賞の演劇部門で受賞する栄誉も得ました。

執筆の背景

三島がこの戯曲を創作したきっかけは、澁澤龍彦の著作『サド侯爵の生涯』を読み、その中で老夫婦の愛と離別に触発されたことです。これにより、サド侯爵とルネの関係を深く掘り下げていくことになりました。

設定と構成

舞台はパリのモントルイユ夫人邸のサロンです。物語は1772年秋から始まり、続いて1788年の再審、1790年4月のフランス革命による緊迫した状況へと進展します。サド侯爵（アルフォンス）は非登場人物ながら、彼の存在は物語を貫く重要なファクターとなります。ルネを中心に、母モントルイユ夫人や姉妹の話が展開され、道徳と欲望の対立が織り交ざる形で情景が描かれます。

あらすじ

第1幕

1772年秋。パリのサロンに母モントルイユ夫人が集まり、サド侯爵の救出のための算段を図ります。ルネが登場するも、母からの離婚勧告を拒否します。妹アンヌが戻り、ルネがサドと不適切な関係にあることが発覚し、家庭内は混乱します。

第2幕

1778年、再審が行われるもサドは再逮捕され、ルネの苦労は水の泡となります。家族間の対立が表面化し、母と娘の激しい言い争いが繰り広げられます。ルネは母からサドに関する秘密を知らされ、彼女の内面が揺れ動きます。

第3幕

1790年、革命の波が迫る中、自由を得たサドが帰ってくるという噂が立ちます。一方、ルネはサドとの再会を拒んで修道院に入る決意を固めます。彼女はサドによって創られた「悪の世界」を理解し、その中で自身の立ち位置を見つめ直すのです。この決意により、二人の関係は決定的に断絶します。

作品評価

作品は当初から高い評価を受け、演劇評論家の間でも「戦後演劇史上最高傑作」との声が挙がりました。特に女性登場人物による深い対話が、サド侯爵の存在を際立たせ、作品に深い意味を与えています。また、海外でも頻繁に上演され、評価が高まっています。日本国内外の劇団が公演し、多様なバリエーションが示されています。戯曲のテーマは、現代でも多くの観客に共鳴し続ける普遍的なものとなっています。

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