サビニの女たち

サビニの女たち

『サビニの女たち』は、フランスの新古典主義画家ジャック＝ルイ・ダヴィッドによって1799年に制作された油彩画です。この作品は、古代ローマの創世に関連する伝説的なエピソード、特にサビニの女たちの略奪の場面をテーマにしています。このテーマは、戦争と対立を乗り越えて人間の愛と和解を描くことが意図されています。

ダヴィッドがこの作品の構想を始めたのは、1795年のことで、彼は当時リュクサンブール宮殿に収監されていました。この背景には、フランス社会が恐怖政治とテルミドールのクーデターによる激しい内戦に直面していたことがあります。ダヴィッドはロベスピエールの支持者であったため、自身の政治的活動が彼をこの拘束へと追い込んでいました。彼は『サビニの女たち』を描くべきか、ホメーロスの作品からの場面を選ぶべきかで悩みましたが、最終的にはサビニの女たちがローマ人とサビニ人の間に火花を散らす瞬間を描くことに決めました。

1796年、ダヴィッドは別居中の妻が訪問した際、彼女に敬意を表し、愛が対立に勝るというメッセージを作品に込めることにしたのです。この作品は、フランス革命による血流の後、人々が和解する未来への願いを象徴しているとも解釈されています。彼はこの絵の制作に4年をかけました。

作品の中で描かれているのは、サビニ王ティトゥス・タティウスの娘で、ロームルスの妻となるヘルシリアの姿です。彼女は乳飲み子を抱え、夫であるロームルスと父親タティウスの間に割って入ろうとしています。強健なロームルスは、後退しようとするタティウスに対して槍を持っていますが、果たして本当に襲いかかるのか躊躇しています。背景にはタルペーイアの岩が描かれており、ここは古代ローマにおいて内戦に関連した象徴的な場所でした。

伝説によると、タティウスがローマを攻撃した際、タルペーイアという名の女性がサビニ人に裏切りを働いたため、ローマは占領の危機にありました。彼女はサビニ人に都市の門を開け渡す代わりに金の腕輪を手に入れようとしましたが、最終的にはサビニ人に圧殺されて岩から投げ落とされました。この出来事がタルペーイアの岩の名の由来となりました。

1799年にはダヴィッドの『サビニの女たち』がルーヴル宮殿で展示され、多くの訪問客がこの作品を有料で鑑賞しました。その後、ダヴィッドと他の画家たちはルーヴルから追放され、作品はクリュニーの古い教会に移されました。その教会はダヴィッドのアトリエとして利用されていました。1819年には『サビニの女たち』と『テルモピュライのレオニダス』を王立博物館に10,000フランで売却しました。興味深いことに、1977年にはフランスがこの作品に基づくヘルシリアの顔をデザインした切手を発行しました。

このように『サビニの女たち』は、美術の歴史に名を残す作品として多くの人々に親しまれ、愛と和解の象徴とされています。

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