サビーネ・シュミッツ

ニュルブルクリンクの女王、サビーネ・シュミッツの生涯

サビーネ・シュミッツ(1969年 5月14日-2021年3月16日)は、ドイツ・アーデナウ出身の伝説的なレーシングドライバーです。ニュルブルクリンク北コース、通称「ノルドシュライフェ」で数々の輝かしい功績を残し、「ニュルブルクリンクの女王」、「世界最速のタクシードライバー」として世界中に知られました。

ホテルとレストランに囲まれた幼少期からレーシングドライバーへ

彼女は、ニュルブルクリンク北コースのすぐそばにあるホテル「Hotel am Tiergarten」を経営するシュミッツ家の次女として生まれました。幼少期から、サーキットのすぐ隣で育ち、姉たちとともに家族で北コースを走る経験をしました。ホテルでの専門的な教育を受け、ソムリエとしての経験も積んでいます。その後、ホテル経営者と結婚し、ノルトライン＝ヴェストファーレン州のプルハイムに移り住みましたが、2000年に離婚。2003年まではニュルブルクリンク北コースのセクション名にちなんだレストランバー「Fuchsröhre」を経営していました。

サーキットへの情熱は、家族で北コースをドライブしていた幼少期の経験から始まりました。3姉妹全員がレースに参加するようになり、中でもサビーネは卓越した才能を発揮。CHCやVLNといったニュルブルクリンクで開催されるレースイベントで勝利を重ね、1996年と1997年には、BMW・M3を駆りベテランドライバー、ヨハネス・シャイトと共にニュルブルクリンク24時間レースで総合優勝を達成。メジャーな24時間耐久レースで優勝した初の女性ドライバーとなりました。1998年にはVLN耐久レース選手権シリーズチャンピオンにも輝いています。

「Ring Taxi」ドライバーとしての成功と、世界的な知名度

2006年からは、クラウス・アベレンと共にランド・モータースポーツチームからポルシェ997でニュルブルクリンクVLN耐久レースシリーズに参戦。2008年のニュルブルクリンク24時間レースでは、ポルシェワークスのマントイ・レーシングに次ぐ3位を獲得するなど、トップレベルで活躍しました。

サビーネは、ニュルブルクリンクの「Ring Taxi」ドライバーとしても有名でした。Ring Taxiとは、サーキットをレーシングドライバーが運転するBMW・M5で走行体験できるサービスです。その豪快なドライビングで人気を博し、「世界最速のタクシードライバー」という異名も持ちました。彼女は、これまで2万周以上、年間約1200周もノルドシュライフェを走行したと語っており、コースを完璧に理解していました。お気に入りのセクションはシュヴェーデン・クロイツとフックスローレです。

主なライバルには、クラウディア・ヒュルトゲンがいました。ヒュルトゲンはBMW・Z4で2005年と2006年のVLNシリーズを連覇し、2008年の第3戦ではポール・トゥ・ウィンを達成するなど、サビーネと互角に渡り合いました。

テレビ出演とグローバルな人気

「Ring Taxi」での活躍、そして類まれなドライビングテクニックは、多くのモータースポーツ番組からの出演オファーに繋がり、ユーモラスな解説で人気を博しました。ドイツのテレビチャンネルDMAXの自動車番組「D Motor」では司会を務め、フェラーリ360モデナと1200馬力のレーシングトラックの対決など、様々なチャレンジ企画に挑戦しました。

イギリスのBBC自動車番組「トップ・ギア」への出演も、サビーネのグローバルな知名度向上に大きく貢献しました。ジャガーSタイプのディーゼル仕様で、ジェレミー・クラークソンが記録した北コースのラップタイムを、初挑戦で47秒も上回る速さで走り抜けました。この出来事は、世界中のモータースポーツファンに衝撃を与えました。その後も「トップ・ギア」に複数回出演し、フォード・トランジットでの挑戦や、アウディR8とスティグとの対決など、数々の伝説的なシーンを生み出しました。2016年には、「トップ・ギア」の正式司会者に就任することが発表されました。

病気と闘いながら、サーキットへの愛を貫く

2017年にがんの告知を受け、闘病生活に入りました。化学療法による治療を経て、一時的にレーシングカーのステアリングを握るまで回復しましたが、その後もがんの再発・転移を繰り返しました。それでも彼女はヘリコプターの操縦免許を取得し、闘病中もニュルブルクリンク上空をヘリで飛行していました。2021年3月16日、51歳で他界しました。

サビーネ・シュミッツは、類まれなドライビングテクニック、ユーモラスなキャラクター、そしてサーキットへの揺るぎない情熱で、世界中のモータースポーツファンから愛され続けました。彼女の功績は、これからも長く語り継がれていくでしょう。

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