サボイアS.21試作戦闘飛行艇

サボイアS.21試作戦闘飛行艇は、スタジオジブリ制作のアニメ映画『紅の豚』、およびその原作となった宮崎駿の漫画『飛行艇時代』に登場する、主人公ポルコ・ロッソの搭乗機として広く知られる架空の戦闘飛行艇です。

機体概要

物語の設定では、本機は1920年代にわずか1機のみが試作されたという経緯を持ちます。倉庫に保管されていた機体をポルコが入手し、自身の愛機としました。

その機体構造は極めて特徴的です。水上に浮かぶ艇体がそのまま胴体となっており、その上部に短い6本の支柱を介して主翼が配置される、独特のパラソル翼形式を採用しています。さらに、この主翼の上に同様の支柱によって水冷エンジンが搭載されるという、個性的なレイアウトを持っています。主翼はわずかに後退角を持つ単葉で、上反角や下反角は見られません。機体と主翼はどちらも木製モノコック構造で造られています。プロペラは機首に配置された牽引式で、ブレードは2枚です。

武装としては、当初7.92mmのシュパンダウ機関銃を機首に2門装備していましたが、劇中で2人目の座席を設ける改修を行った際に、機関銃は1門に減らされました。

また、物語の展開、特に撃墜される前と後では、機体の外観に微妙な差異が見られます。これは原作版と映画版でもそれぞれ形状が異なるため、厳密には合計4つのバリエーションが存在すると言えます。

エンジンと設定

搭載されるエンジンについても、原作版と映画版で違いが描かれています。原作では、改修前はイゾッタ・フラスキニ・アッソ製水冷V型12気筒エンジンを搭載し、改修後はロールス・ロイス ケストレルに換装されたとされています。一方、映画版では、改修時にフィアット AS.2「フォルゴーレ」エンジンに載せ替えられています。

映画の中では、このフィアット AS.2エンジンについて「1927年のシュナイダーカップでこいつをつけたイタリア艇はカーチスに負けたんだ」というポルコのセリフがありますが、これは現実の史実とは異なります。実際に1927年のシュナイダーカップに出場したイタリアのマッキ M.52が搭載していたのはフィアットAS.3エンジンであり、敗れた相手はイギリスのスーパーマリン S.5でした。フィアットAS.2は、その前年の1926年大会でマッキ M.39|マッキ_M.39に搭載され、優勝を飾ったエンジンです。物語内のセリフは、当時の飛行艇レースや技術の雰囲気を伝えるためのフィクションと言えます。

モデルと名称

サボイアS.21のデザインは、監督である宮崎駿氏が小学生の頃に写真で見たという飛行艇がモデルになっているとされており、その機体はマッキ M.33ではないかと考えられています。

「サボイア（サヴォイア）」は、実在したイタリアの航空機メーカーの名前です。爆撃機などを製造していましたが、1920年にSIAI社に吸収合併されSIAI-サヴォイアとなり、その後サヴォイア・マルケッティ、SIAI-マルケッティと社名を変遷させました。実在のサボイア社からもS.21という型番の飛行艇が製造されましたが、これはSIAI-サヴォイア時代の機体であり、『紅の豚』に登場する機体とは異なり、複葉機でした。物語上のサボイアS.21は、この実在メーカーの名前を借りた架空の機体と言えます。

作品中での名称については、原作のポルコ初登場シーンでは「愛艇フォルゴーレ号」、あるいは本名として「サボイアS-21試作戦斗艇」という呼び名が登場しますが、それ以外の場面では「サボイアS.21試作戦闘飛行艇」という名称で統一されています。撃墜前後の機体形状の差異については、特に物語中で名称の変化はありませんでしたが、後に映画版の改修後形状が模型化される際に、宮崎駿氏自身の手によってS.21Fという形式名が付けられました。

サボイアS.21試作戦闘飛行艇は、そのユニークなデザインと物語における重要な役割から、『紅の豚』の世界観を象徴する存在として、多くのファンに記憶されています。

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