サミュエル・ドウ

サミュエル・カニオン・ドウ：リベリアの激動を駆け抜けた独裁者

サミュエル・カニオン・ドウ（Samuel Kanyon Doe, 1951年5月6日 - 1990年9月9日）は、リベリアの軍人、政治家であり、同国第21代大統領を務めた人物です。1980年のクーデターで政権を掌握し、リベリア史上初の非アメリコ・ライベリアン出身の指導者となりました。しかし、その政治運営は民族主義を基盤とした独裁的色彩を帯び、政治的反対者への苛烈な弾圧、汚職、自身の一族であるクラン族の優遇など、数々の問題点を抱えていました。

概要

ドウは1980年、軍曹の地位にあった時にクーデターを起こし、ウィリアム・トルバート大統領と真のホイッグ党を打倒しました。これにより、133年間にわたるアメリコ・ライベリアンによる支配に終止符が打たれました。政権掌握後、ドウは憲法を停止し、自らを事実上の国家元首とする臨時軍事政府（人民救済評議会）を樹立しました。1984年には臨時軍事政府を解散しましたが、自身の権力維持に固執し、翌年の選挙で不正疑惑が指摘される中、勝利を宣言しました。

ドウ政権下では、リベリアの港が外国船舶に開放され、多額の外国資本が流入し、リベリアはタックスヘイブンとしての評判を高めました。外交政策では、アメリカとの関係を重視し、反ソビエトの立場を明確にしました。

しかし、その統治は汚職、全体主義、出身部族であるクラン族の優遇といった問題を抱え、リベリア国民やアメリカの離反を招きました。1989年12月には、チャールズ・テイラー率いる反政府勢力リベリア国民愛国戦線（NPFL）が侵攻し、第一次リベリア内戦が勃発しました。ドウは1990年9月9日にプリンス・ジョンソンによって捕らえられ、処刑されました。

生い立ちと政権掌握

リベリア内陸部のグランドゲデ郡タゾンで、農家の息子として生まれたドウは、初等教育を受けたものの、学業不振により高校を中退し、1969年に陸軍に入隊しました。1979年10月には下士官に昇進し、アメリカ陸軍のグリーンベレー出身者による訓練を受けました。当時リベリアは、19世紀にアメリカから渡ってきたアメリコ・ライベリアンが支配しており、先住民系の国民は政治的に抑圧されていました。ドウが軍曹に昇進した時、後に彼の命を奪うことになるプリンス・ジョンソンが上官でした。

1980年4月12日、上級軍曹となっていたドウは、トーマス・クィウォンパ、トーマス・ウェー・シェンら他の部族出身の兵士たちと共にクーデターを実行し、アメリコ・ライベリアン出身のトルバート大統領を殺害しました。このクーデターにより、トルバートと26人の支持者が死亡し、さらに10日後には首都モンロビアの海岸で政権幹部13人が銃殺されました。このクーデターは、リベリアの政治構造を大きく変える出来事となりました。

ドウ政権

ドウ政権下では、リベリアの港湾が外国に開放され、外貨獲得と海外投資の誘致が進められました。また、独自の通貨も発行されましたが、政権崩壊後は価値を失いました。ドウは人民救済評議会（PRC）を設置し、自らが議長となり事実上の大統領として君臨しました。当初は文民統治への復帰を約束しましたが、その約束は果たされませんでした。

1985年の総選挙では、大規模な不正が行われ、ドウは51%の支持を獲得したと発表されましたが、野党の多くが議会への参加をボイコットしました。選挙後、クーデターの同志であったトーマス・クィウォンパがクーデターを企てましたが失敗し、処刑されました。その報復として、ドウは自身の部族であるクラン族を中心とした軍を派遣し、ギオ族とマノ族の住む地域で虐殺を行いました。また、モンロビアに連行された人々の中には、ドウのペットであるライオンの餌にされた者もいたと言われています。1986年1月6日、ドウは大統領に就任しましたが、その後は野党の活動を禁止するなど、圧政を敷きました。

リベリア内戦と最期

アメリカの後ろ盾を得ていたドウ政権でしたが、周辺諸国やチャールズ・テイラー率いるリベリア国民愛国戦線（NPFL）の武装介入により内戦へと発展しました。1990年9月9日、戦況が悪化する中、NPFLから分派したプリンス・ジョンソン率いるリベリア独立国民愛国戦線（INPFL）が首都モンロビアに侵攻しました。

ドウはアメリカ大使館に協力を求めましたが断られ、西アフリカ諸国経済共同体監視団（ECOMOG）に仲介を依頼しました。しかし、これはジョンソンの策略でした。ECOMOGの駐屯地にやってきたドウは、ジョンソンに捕らえられ、拷問の末に処刑されました。その様子はビデオに撮影され、世界中に流出しました。

ドウの死後、ジョンソンは一時的に大統領を宣言しましたが、最終的には野党の国民統合暫定政府がエーモス・ソーヤーを暫定大統領に指名しました。その後、ジョンソンは虐殺行為などにより支持を失い、亡命しました。

その後

2008年、ドウの夫人ナンシー・ドウは、ドウの従兄弟が運輸大臣に任命されたことに批判的であり、エレン・ジョンソン・サーリーフ大統領を批判しました。ナンシーとジャクソン・E・ドウは、ドウの遺産を巡って対立しました。また、ドウの弟であるチェイは、リベリア和解民主連合（LURD）のリーダーを務めましたが、2004年に死去しました。ペイニーズヴィルには、サミュエル・カニオン・ドウ・スポーツコンプレックスが存在します。

サミュエル・ドウは、リベリアの激動の歴史の中で、その名を刻んだ人物であり、その統治は多くの議論を呼んでいます。

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