サムソンとデリラ (クラナッハ)

[ルーカス・クラナッハ]の「サムソンとデリラ」

[ルーカス・クラナッハ]によって1528年から1530年頃に描かれた油彩画「サムソンとデリラ」は、旧約聖書の「士師記」にあるサムソンの物語を題材としています。この作品はブナ板に油彩で描かれており、その小さなサイズから、個人的な空間に飾られていたと考えられています。現在はニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されています。

作品の背景

「士師記」によれば、サムソンは怪力の持ち主で、素手でライオンを倒したり、一人で千人もの敵を打ち負かしたりするほどの力を持っていました。しかし、女性には弱く、ペリシテ人の女性デリラに心を奪われてしまいます。デリラはサムソンの力の源が髪の毛にあることを聞き出し、彼が眠っている間に髪を切り、サムソンは力を失い、捕らえられてしまいます。クラナッハはこの物語を、アルプス以北で初めて板絵として描きました。

絵画の詳細

この絵画は、アウクスブルクのシェッツラー宮殿にある同主題の作品の後に制作されました。画面には、ペリシテ人との戦いで疲れて眠りこけているサムソンが、デリラの膝の上に横たわっている様子が描かれています。足元には、サムソンが敵を倒すのに使ったロバの顎の骨が置かれています。デリラはハサミでサムソンの髪を切っており、彼の怪力を奪い取ろうとしています。

クラナッハの時代、この物語は寓意的な意味を持っていました。それは男性が恋に溺れる危険性と、女性が持つと考えられていた策略に対する警告でした。また、この作品は、ルーカス・ファン・レイデンの木版画「サムソンとデリラ」から影響を受けていると考えられています。縦長の構図や、森を背景にサムソンの敵であるペリシテ人が近づいてくる様子など、共通する要素が見られます。

特徴的な表現

デリラが身につけている赤い衣装は、クラナッハの卓越した技術を示すものです。16世紀の歴史家ヨハン・ノイデルファーは、絵画によってこれほど艶やかな素材感を表現できることに驚嘆しました。一方で、画面の多くが黒く下塗りされ、単色の色面で構成されている部分は、クラナッハ工房の効率的な絵画制作手法を示唆しています。これらの特徴から、クラナッハの工房における分業体制や、効率を重視した制作プロセスを垣間見ることができます。

クラナッハの「サムソンとデリラ」は、聖書の物語を題材としながらも、当時の社会的な視点や芸術的な技巧が巧みに組み込まれた作品です。絵画の背後にある物語、寓意的な意味合い、そして芸術的な表現に注目することで、より深く作品を理解することができるでしょう。

参考資料

『クラーナハ展500年後の誘惑』、国立西洋美術館、ウィーン美術史美術館、TBS、朝日新聞社、2016年刊行
大島力『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年刊行

外部リンク

* メトロポリタン美術館公式サイト、ルーカス・クラナッハ『サムソンとデリラ』 (英語)

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