サユディス

サユディス：リトアニア独立運動の軌跡

サユディス（Sąjūdis）は、1980年代後半から1990年代初頭にかけて、ソビエト連邦の支配下にあったリトアニアの独立運動を牽引した重要な政治組織です。リトアニア語で「運動」を意味するこの組織は、当初はリトアニアの自治拡大を目指していましたが、次第に独立要求へと発展し、最終的にはリトアニアの独立を達成する原動力となりました。

名称と表記

正式名称は「リトアニア改革運動」（Lietuvos Persitvarkymo Sąjūdis）であり、略称が「サユディス」です。日本語では、ロシア語転写の「サユディス」の他、リトアニア語の発音をより正確に反映した「サーユーディス」など、複数の表記が見られます。

歴史的背景

1980年代半ば、ソ連のゴルバチョフ書記長が提唱したペレストロイカ（改革）やグラスノスチ（情報公開）は、リトアニア共産党指導部には当初、受け入れに消極的でした。しかし、ポーランドの「連帯」運動の高まりや、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世、アメリカ政府などの支援を背景に、バルト三国の独立運動は徐々に勢いを増し、リガ、タリン、ヴィリニュスなどでデモが頻発するようになりました。

サユディスの設立と活動

1988年6月3日、リトアニア科学アカデミーでの会合で、共産党員、非共産党員を問わず知識人たちが集まり、サユディスの発起グループを結成しました。35名からなるこのグループは、ゴルバチョフの改革を支持し、ペレストロイカ、グラスノスチ、民主化を推進する運動を組織することを目標としました。

同年6月24日には、サユディス初の大規模集会が開催され、ソ連共産党第19回全国党協議会に出席する代表にサユディスの目標が伝えられました。7月には、代表団の帰還を約10万人がヴィンギス公園で歓迎。8月23日には、バルト三国のソ連併合を認めた独ソ不可侵条約の秘密議定書に抗議する大規模集会が開かれ、約25万人が集結しました。

サユディスは、地下新聞『サユディス報知』の発行や、合法的な新聞『アトギミマス』（再生）の刊行を通じて、そのメッセージを広めました。同年10月には、ヴィリニュスで設立大会を開催し、ヴィータウタス・ランズベルギスを委員会議長に選出しました。ランズベルギスは当時音楽学の教授であり、非共産党員でした。

サユディスは、リトアニア語の公用語としての復権、スターリン時代の情報の開示、環境保護、イグナリナ原発の建設中止、独ソ不可侵条約の秘密議定書の情報開示などを要求し、大規模集会を通じてこれらの目標を推進しました。当初、共産党指導部は集会への参加を避けていましたが、次第に参加せざるを得なくなり、1988年10月には、アルギルダス・ブラザウスカスがリトアニア共産党第一書記に就任しました。

1989年2月、サユディスはリトアニアが強制的にソ連に併合されたと宣言し、独立を最終目標としました。同年5月には、リトアニアの国家主権を宣言し、ソ連併合は非合法であると主張しました。8月23日には、独ソ不可侵条約調印50周年を記念し、タリンからヴィリニュスまで600kmにわたる人間の鎖「バルトの道」を組織し、国際社会の注目を集めました。

1989年12月、リトアニア共産党はソ連共産党から離脱し、1990年2月の選挙でサユディスは共和国最高会議（国会）で圧倒的多数を占めました。同年3月11日、リトアニアは独立を宣言し、ソ連構成共和国として初めて独立を宣言しました。

独立達成とその後のサユディス

独立宣言後、ソ連は武力介入を行いましたが、1991年8月のモスクワ・クーデターの失敗後、ソ連はリトアニアを含むバルト三国の独立を承認しました。リトアニアは国際連合への加盟を果たし、独立を回復しました。

しかし、独立達成後、サユディスは異なる政治的信条を持つ人々をまとめきれず、経済危機への対応の失敗も重なり、その影響力は低下しました。1992年の議会選挙では、リトアニア民主労働党が勝利し、サユディスは下野しました。

現在でもサユディスはリトアニア国内で活動を続けていますが、かつてのような影響力はありません。しかし、リトアニア独立運動におけるサユディスの功績は、歴史に深く刻まれています。

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