サラマンダー殲滅

梶尾真治による長編SF小説『サラマンダー殲滅』は、1988年から1990年にかけて雑誌『獅子王』で連載され、1991年に第12回日[[本SF大賞]]を受賞しました。同年にはNHK-FMでラジオドラマ化もされており、幅広い層に支持された作品です。

概要

物語は、テロによって夫と娘を失った主人公の女性が復讐を遂げるというシンプルなプロットを軸に展開します。しかし、その内容は単なる復讐劇にとどまらず、パニック、SFホラー、スパイ小説など、多様なジャンルの要素が複雑に絡み合い、読者を飽きさせません。物語は三部構成となっており、各部で異なる展開を見せるのが特徴です。

第一部では、雨の降らない惑星を舞台に物語が始まります。前半はSF的な要素が中心ですが、後半になるとパニック小説の様相を呈します。しかし、その変化は奇抜なSF的アイデアと周到な伏線によって支えられており、物語に深みを与えています。第二部では、SFホラーとスパイ小説の要素が強くなり、物語は新たな展開を迎えます。

物語の舞台となる宇宙は、人類が地球を離れて各地の惑星に移住した後の世界です。そこには、スター・ウォーズを彷彿とさせるような、カラフルでエキゾチックな惑星が登場します。また、脇役として登場するキャラクターも個性的で魅力的です。宇宙船の操縦士を夢見る青年や、持病のために赴任先の星に留まることになった中年外交官など、それぞれのキャラクターが物語に彩りを添えています。彼らの戦いを経て、物語は最終的にテロ組織の本部への襲撃を描く第三部へと進みます。

本作は、復讐小説、パニック小説、スパイ・スリラー、冒険活劇といった複数のジャンルの要素が盛り込まれた、エンターテイメント性の高い作品です。まるで、6冊、7冊分のアイデアを1つの作品に詰め込んだかのような、スペクタクルな大作となっています。

第一部に登場する「飛びナメ」は、作者の梶尾自身が幼少期の体験から生理的に苦手だったナメクジをモチーフに創造されたものです。

評価

毎日新聞の書評欄（1990年12月）で、大森望は本作を「宇宙規模のテロ組織による爆弾テロに巻き込まれた平凡な主婦が、復讐を挑む」という、アニメや安っぽいスペースオペラのような設定を、緻密なディテールによってSFとしてのリアリティを支え、一級のエンターテイメントSFに昇華させた、と評価しました。

また、第39回日[[本SF大賞]]（2018年）の選評では、日下三蔵が『マイナス・ゼロ』、『石の血脈』と並べて本作を「新人の第一作が、誰の目にもわかるホームランであるケース」と評しました。

あらすじ

主人公の神鷹静香は、惑星ヤポリスで夫と娘と暮らす24歳の主婦でした。ある日、彼女は汎銀河聖解放戦線による爆弾テロに巻き込まれ、夫と娘を失います。このテロは、「ヤポリス・サースディ」と呼ばれるようになり、10km四方の範囲と無関係の市民6万人を蒸発させました。静香自身は生き残りますが、心神喪失の状態に陥ります。

静香の父は、彼女の意識を取り戻すために、汎銀河聖解放戦線への憎悪を精神外科手術で植え付けることを決意します。手術は成功し、静香は意識を取り戻しますが、以前とは異なり、復讐に燃える戦士へと変貌していました。契約軍人の夏目郁楠は、静香に協力する代わりに婚約を要求し、彼女を自身の訓練所へと連れて行きます。その道中で、宇宙船操縦の腕を持つラッツォという若者を仲間に加えます。訓練所では、元テロリストのドゥルガーが、静香に戦士としての基礎訓練を施します。

静香の父は、彼女が危険な行動に出ないように、復讐行動を起こそうとすると両足と右手が麻痺するという心理ブロックをかけていました。この心理ブロックは「P.アルツ剤」によって一時的に解除できますが、記憶を失わせる副作用もありました。静香は、愛する夫と娘の記憶が薄れていく中でも、復讐の念だけを持ち続けました。彼女たちは、汎銀河聖解放戦線のテロリストであるア・ウンとガスマンが計画していた爆弾テロを阻止することに成功しますが、より大きな被害を惑星メフィスに引き起こしてしまいます。その過程で、グレム財団のグレム老と出会います。

一方、惑星ヤポリスでは、無機物や有機物が融合していく「空間溶融」現象が発生していました。調査にあたったヨブ・貞永とラーミカ・由井は、その原因が静香の超能力、特に記憶から物体に干渉する「負のサイコメトリ」であることを突き止めます。

汎銀河聖解放戦線の本部施設「サラマンダー」は、バトルメント恒星系の灼熱惑星にあることが判明します。その惑星は、自転周期と公転周期の関係で同じ半球を太陽に向けており、トワイライトゾーンに本部施設が建設されていました。しかし、周期のずれによって本部施設のある場所は次第に昼半球側へと移動しつつありました。

サラマンダーの位置情報を掴んだグレム老は、静香、夏目、ドゥルガー、ラッツォと共に、サラマンダー攻略作戦を実行します。一方、空間溶解現象の解決、最悪の場合は静香の抹殺を命じられたヨブ・貞永、ラーミカ・由井、惑星メフィス治安隊が、一行を包囲しようとします。

主な登場人物

神鷹静香（こうたかしずか）: 主人公。テロで家族を失い、復讐を誓う。
夏目郁楠（なつめいくなん）: 星条約機構の契約軍人。静香に協力する代わりに婚約を要求する。
ドゥルガー: 元テロリストの巨漢女戦士。静香に戦闘訓練を施す。
ラッツォ: 宇宙船操縦の名手。
グレム老人: グレム財団の総帥。テロで息子を失った。
ヨブ・貞永: ヤポリス警察の刑事。空間溶融現象を調査する。
ラーミカ・由井: サイコメトラー。ヨブ・貞永と共に空間溶融現象を調査する。
秋山題吾（あきやまだいご）: 静香の実父。元軍人。
ニキ・ガルシア、ハフ・ハハール、アーメル・メヘイ、J・P・ジョコ、ノア・沢井: その他登場人物。

汎銀河聖解放戦線

エネル・ゲ: 汎銀河聖解放戦線の主席。
ア・ウン: テロリスト。ラッツォに荷物を盗まれる。
ガスマン: ア・ウンと共にメフィスに現れるテロリスト。

書籍情報

本作は、以下の出版社から複数の形態で出版されています。

1990年朝日ソノラマ
1992年ソノラマノベルス朝日ソノラマ
1994年ソノラマ文庫朝日ソノラマ
1999年ソノラマ文庫NEXT 朝日ソノラマ
2006年光文社文庫光文社
2018年徳間文庫徳間書店

ラジオドラマ

1991年にNHK-FM『サウンド夢工房』でラジオドラマ化され、1992年には『青春アドベンチャー』で再放送されました。

主な出演者

神鷹靜香 - 塩田朋子
夏目郁楠 - 塩沢兼人
ドゥルガー - 杉浦悦子
ラッツォ - 松田洋治
グレム老人 - 北見治一
ヨブ・貞永 - 関根信昭
神鷹啓一 - 早坂直家
ガスマン - 平泉成
ラーミカ・由井 - 早瀬優香子

スタッフ

脚色: 高谷信之
* 演出: 千葉守

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