サロン・ドートンヌ

サロン・ドートンヌ：前衛芸術の祭典

サロン・ドートンヌ（Salon d'automne）は、毎年秋にパリで開催される、現代美術史において重要な役割を果たした展覧会です。その名の通り「秋のサロン」を意味し、保守的なフランス芸術家協会や国民美術協会（ラ・ナシオナル）の展覧会に対抗する形で、1903年に創設されました。

伝統への反逆：前史

サロン・ドートンヌの誕生は、フランス美術界における長年の権威主義への反発から理解できます。1863年の「落選展」は、保守的な審査基準に落とされた作品を一堂に展示することで、既存の美術体制への批判を巻き起こしました。この流れは、ギュスターヴ・クールベが独立した展示会を開催した1855年まで遡り、アカデミズムに縛られない新しい表現を求める動きが活発になっていました。その後も、国民美術協会の設立や、無審査・無賞を原則としたアンデパンダン展の開催など、独立した芸術活動を模索する動きが続きました。

サロン・ドートンヌの設立と目的

1903年、ベルギーの建築家フランツ・ジュールダンを中心とする建築家、画家、版画家らが、サロン・ドートンヌを設立しました。彼らは、ル・サロンや国民美術協会の保守性を批判し、前衛芸術家や新進芸術家を積極的に紹介することを目的としていました。絵画だけでなく、彫刻、写真、版画など多様な芸術分野の作品が展示され、現代アートの多様性を示す場となりました。

創設メンバーには、エクトル・ギマール、ウジェーヌ・カリエール、フェリックス・ヴァロットン、エドゥアール・ヴュイヤール、ピエール・ボナールといった著名な芸術家たちが名を連ねています。彼ら以外にも、様々な分野のアーティストたちが参加し、サロン・ドートンヌは新しい芸術運動の温床となりました。

フォーヴィズムの誕生

サロン・ドートンヌは、1905年にフォーヴィズムが誕生した場所としても知られています。この年、アンリ・マティス、アンドレ・ドラン、モーリス・ド・ヴラマンクらの作品が展示され、その鮮烈な色彩と力強い筆致は、美術界に大きな衝撃を与えました。美術評論家のルイ・ヴォークセルは、この展覧会を「野獣の檻」と表現し、フォーヴィズムという名称が生まれたきっかけとなりました。

キュビスムへの発展とその後

フォーヴィズムの後、サロン・ドートンヌはキュビスムなど、新たな芸術運動を紹介する場となりました。1911年には、パブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラックらのキュビスム作品が本格的に展示され、この運動の普及に貢献しました。第一次世界大戦による中断期間を除き、サロン・ドートンヌはエコール・ド・パリ、ダダイスム、シュルレアリスム、抽象芸術など、20世紀の主要な芸術運動を積極的に紹介し続けました。

日本のアーティストとの関わり

サロン・ドートンヌには、藤田嗣治、東郷青児、佐伯祐三など、多くの日本人のアーティストも参加しました。特に東郷青児の尽力により、1970年代以降は日本との交流が深まり、現在でも多くの日本人が作品を出展しています。

現代のサロン・ドートンヌ

現在、サロン・ドートンヌは毎年秋、パリのシャンゼリゼ通りで盛大に開催されています。絵画、彫刻、写真、インスタレーションなど、多様なジャンルの作品が展示され、現代美術の動向を示す重要な展覧会として、その役割を担い続けています。2020年には新型コロナウイルスの影響でオンライン開催となりましたが、2021年には再びパリで盛況のうちに幕を閉じました。

サロン・ドートンヌは、1世紀以上にわたり、美術界に大きな影響を与え続けてきた展覧会です。これからも、革新的な芸術表現を紹介し、現代美術の未来を照らし続けるでしょう。

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