サンクチュアリ (フォークナー)

『サンクチュアリ』：禁酒法時代の闇と人間の業を描いたフォークナー傑作

ウィリアム・フォークナーの小説『サンクチュアリ』（原題：Sanctuary）は、1931年の初版刊行以来、高い評価を受けながらも、性描写の過激さから多くの議論を巻き起こしてきた作品です。舞台は、フォークナーが創作した架空のミシシッピ州ヨクナパトーファ郡。1929年5月と6月、禁酒法時代の混沌とした社会状況が物語の背景を形成しています。

あらすじ

弁護士のホレス・ベンボウは、倦怠感に苛まれた生活から逃避するように故郷ジェファスンに向かいます。そこで彼は、密造酒業を営むリー・グッドウィンとその内縁の妻ルービー、そして危険な男ポパイらと出会います。一方、ベンボウの妹ナーシサに求婚して振られたガウァン・スティヴンズは、奔放な女性テンプル・ドレイクと行動を共にします。スティヴンズの飲酒癖と軽率な行動が、テンプルを破滅へと突き落とす悲劇の引き金となります。

スティヴンズはテンプルをスタークヴィルで開催される野球の試合に連れて行く途中、グッドウィンの家に立ち寄り、そこでさらに酒を飲みます。酔っぱらったスティヴンズは交通事故を起こし、ポパイらの住むグッドウィンの家にたどり着きます。テンプルは、グッドウィンの家の不穏な雰囲気とスティヴンズの身勝手さに恐怖を感じながらも、逃げ出すことができず、そこで悲惨な出来事に遭遇します。

夜、グッドウィンの家に密造酒仲間が集まり、酒宴が繰り広げられます。その中で、スティヴンズと一人の男が口論になり、酔いつぶれたスティヴンズはテンプルと同じ部屋に運び込まれます。男たちが酒を運び出すと、スティヴンズはテンプルを置き去りに家から出ていきます。テンプルは、善良なトミーに助けられようとするも、ポパイによって惨殺されたトミーを目の当たりにし、自らは強姦されてしまいます。

ポパイはテンプルをメンフィスに連れて行き、売春宿に監禁します。一方、グッドウィンはトミー殺害の容疑で逮捕され、ベンボウは彼の弁護を引き受けます。ベンボウは、テンプルの所在を突き止めようと奔走しますが、テンプルは既に堕落の淵に突き落とされていました。

裁判では、テンプルが衝撃的な偽証を行い、グッドウィンに罪を着せます。グッドウィンは有罪判決を受け、暴徒によって私刑に処されます。ポパイは別の犯罪で逮捕され、処刑されます。テンプルと父親は、物語の最後にパリで新たな生活を始めるも、心に深い傷を負ったままです。

登場人物

物語の中心人物は、不幸な過去を持つ犯罪者ポパイ、善意の人間ながら無力感を味わう弁護士ベンボウ、そして破滅へと突き進むテンプル・ドレイクです。その他、グッドウィン夫妻、スティヴンズ、売春宿の女主人ミス・リーバなど、それぞれに複雑な背景を持つ登場人物が物語を彩り、禁酒法時代の闇と人間の業を浮き彫りにします。

作品の評価

『サンクチュアリ』は、公開当時、その過激な描写から多くの批判を受けました。しかし、時代を経るにつれ、フォークナーの優れた描写力と、登場人物たちの複雑な心理描写が高く評価されるようになりました。この作品は、人間の弱さや欲望、社会の歪みなどを描き出し、読者に深い衝撃と余韻を与え続ける傑作として、文学史にその名を刻んでいます。フォークナー自身は、この作品を「金儲けのためだけに書いた粗悪品」と評したとされていますが、その評価とは裏腹に、彼の文学的才能を世界に知らしめた作品であることは間違いありません。

また、この作品は1933年に映画化されていますが、『テンプル・ドレイク物語』というタイトルで、登場人物名やストーリーが一部変更されています。これは当時の映画制作倫理規定や著作権の問題によるものでした。

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