ヨクナパトーファ郡

ヨクナパトーファ郡は、アメリカの文豪ウィリアム・フォークナーが生み出した架空の土地であり、彼の作品世界を語る上で欠かせない重要な舞台です。この郡は、フォークナーの故郷であるミシシッピ州ラファイエット郡をモデルとしており、その風土や歴史、人々の生活が詳細に描き出されています。

郡の広さは2400平方マイルとされ、『アブサロム、アブサロム！』に収録された地図によれば、人口は白人が6298人、黒人が9313人と設定されています。郡都はジェファーソンという名の町で、フォークナーの作品群において重要な役割を担っています。

ヨクナパトーファ郡を舞台とした作品は数多く、『サートリス』、『響きと怒り』、『死の床に横たわりて』、『サンクチュアリ』、『八月の光』、『アブサロム、アブサロム!』、『征服されざる人びと』、『村』、『墓地への侵入者』、『駒さばき』、『尼僧への鎮魂歌』、『町』、『館』、『自動車泥棒』などが挙げられます。これらの作品には、サートリス家、コンプソン家、スノープス家といった特定の家族や人物が繰り返し登場し、それぞれの物語が絡み合いながら、複雑な人間関係と社会の構造を描き出しています。

フォークナーは、フランスの作家オノレ・ド・バルザックが用いた「同一人物再登場」という手法から影響を受け、ヨクナパトーファ郡を舞台にした一連の作品群を「ヨクナパトーファ・サーガ」と称しました。このサーガは、登場人物たちがそれぞれの人生を歩みながらも、過去の出来事や家族のつながりによって運命が左右されるという、複雑で奥深い世界観を創り出しています。フォークナーの卓越した文体と心理描写は、読者を物語の中に引き込み、登場人物たちの喜びや苦悩を共有させます。

ヨクナパトーファ・サーガは、日本文学にも大きな影響を与えており、井上光晴、大江健三郎、中上健次、阿部和重といった作家たちの作品には、その影響が色濃く見られます。フォークナーが描いた架空の郡は、単なる物語の舞台ではなく、人間の業や社会の矛盾を映し出す鏡として、文学史において重要な位置を占めています。

以下に、ヨクナパトーファ郡を舞台とした代表的な小説を列挙します。

『サートリス』 (1929年)
『響きと怒り』 (1929年)
『死の床に横たわりて』 (1930年)
『サンクチュアリ』 (1931年)
『八月の光』 (1932年)
『アブサロム、アブサロム!』 (1936年)
『征服されざる人々』 (1938年)
『村』 (1940年)
『行け、モーセ』 (1940年)
『墓地への侵入者』 (1948年)
『町』 (1954年)
『館』 (1959年)
* 『自動車泥棒』(1962年)

関連事項として、ヨクナパトーファ郡の郡都であるジェファーソンも、フォークナーの作品において重要な役割を果たしています。

ヨクナパトーファ郡は、フォークナーの文学世界を理解する上で欠かせない概念であり、彼の作品を通じて、人間の普遍的なテーマや社会の諸相を深く考察することができます。フォークナーの文学世界に足を踏み入れることは、人間の内面を深く掘り下げ、現代社会に通じる問題意識を養う上で貴重な経験となるでしょう。

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