サンダー・チャイルド

サンダー・チャイルド：勇猛なる軍艦の物語

H・G・ウェルズの不朽の名作『宇宙戦争』に登場するサンダー・チャイルド。その名は「雷震子」を意味し、イギリス海軍の水雷衝角艦として物語に彩りを添える存在です。水雷衝角艦とは、艦首に衝角と魚雷発射管を備えた、小型で高速な艦艇のこと。小説ではその詳細なスペックは明かされていませんが、2本の煙突を持ち、水雷衝角と砲を装備していたと考えられています。

サンダー・チャイルドの姿は、小説の挿絵や艦艇の用途から、実在した水雷衝角艦「ポリフィーマス」やアラガント級防護巡洋艦をモデルにしていると推測されます。しかし、小説や映画など、様々なメディアでその姿は異なって描かれています。『ザ・カウントダウン 地球大戦争』ではハヴォック級駆逐艦、『Jeff Wayne's Musical Version of The War of the Worlds』ではカノーパス級戦艦として表現されています。興味深いのは、実在した水雷衝角艦は、敵艦への体当たり攻撃など、その実用性に疑問符が付き、主に魚雷発射試験に用いられたという点です。サンダー・チャイルドも、劇中では衝角内の魚雷発射管を使用する描写はありません。

火星人との死闘

サンダー・チャイルドの活躍は、物語の主人公が弟から聞いた話として語られます。舞台は火星人が地球侵略を開始した時。サンダー・チャイルドは、イギリスからヨーロッパへの避難民船団を護衛する任務に就いていました。6月のある水曜日の午後、ファウルネス方面から3機のトライポッドが出現。船団の進路を阻むように迫ってきました。テムズ河口付近に展開していた他の艦艇は、トライポッドに対抗するには遠すぎました。船団を守る最後の望みは、サンダー・チャイルドただ一つに託されました。

サンダー・チャイルドは、躊躇なくトライポッドめがけて全速力で突進を開始します。火星人を驚かせる大胆な行動でした。1機のトライポッドがガス弾を発射したのは、サンダー・チャイルドが船団とトライポッドのほぼ中間地点に達した時でした。ガス弾を直撃したにも関わらず、サンダー・チャイルドは進撃を止めませんでした。トライポッドは陸地へ後退を開始し、熱線で反撃。熱線によって発生した水蒸気がサンダー・チャイルドを覆い隠したため、撃沈されたかのように見えました。

しかし、サンダー・チャイルドの中枢部は無事でした。炎に包まれた艦体は、熱線を発射したトライポッドに体当たりし、衝角攻撃と砲撃で撃破します。次の標的は2機目のトライポッド。再び、サンダー・チャイルドは勇敢にも突進します。両者の距離が100ヤード（約91メートル）に迫った時、トライポッドは熱線を放ちました。甲板と煙突が吹き飛び、サンダー・チャイルドは大破。しかし、艦体の慣性で前進を続け、2機目のトライポッドに激突、これを撃沈しました。3機目のトライポッドは撤退し、避難船団は無事にヨーロッパへと向かいます。

サンダー・チャイルドのその後は、視界が晴れた時にはすでに姿を消していたとしか描写されていません。壮絶な戦いを終え、沈没したのか、それとも生還を果たしたのかは、小説では明かされていません。サンダー・チャイルドの勇姿は、読者に深い印象を与え、物語に大きな説得力とドラマ性を加えています。この勇敢な軍艦の運命は、今もなお人々の想像力を掻き立て続けています。

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