サン・イシードロへの巡礼

『サン・イシードロへの巡礼』

『サン・イシードロへの巡礼』は、スペインの著名な画家フランシスコ・デ・ゴヤが1820年から1823年に制作した絵画であり、まさにロマン主義の旗手と呼ぶに相応しい作品です。この作品は、スペインの首都マドリードで行われるサン・イシードロ祭をテーマにしています。この祭りは、労働者の守護聖人として知られる聖イシードロを祝う伝統的な催し物で、毎年5月中旬に開催されます。

作品は、ゴヤが精神的・肉体的苦痛に苦しんでいた70代半ばに、彼の邸宅であるキンタ・デル・ソルドの壁面に描かれたもので、現在はマドリードのプラド美術館に保存されています。"黒い絵"と呼ばれる14点の壁画群の一つであり、ゴヤの複雑な心情が色濃く表現されています。

サン・イシードロ祭の概要

サン・イシードロ祭は、農民や日雇い労働者の守護聖人である聖イシードロを称える祭りです。聖イシードロは、10世紀末から11世紀初頭にかけて活躍した敬虔な人物であり、農夫の一生を送っていました。伝説によれば、彼が祈りを捧げている間、天使たちが彼の手伝いをし、働きぶりは同僚の3人分に相当すると言われています。このように、聖イシードロは超自然的な力を持つ存在として、多くの人々に信仰されています。

また、彼と聖女マリア・トリビアの結婚や、子供を生んだことも後に語り草となっています。聖イシードロの生前の奇跡や、おおいに信仰される存在であったことから、彼は1622年にローマ教皇によって列聖され、以降広く崇められています。

作品の詳細

『サン・イシードロへの巡礼』では、目を引くのはその表現技法です。ゴヤは特に前景の輪郭を鮮やかに描写し、行列を形成する人々の顔にはおどろおどろしい表情が見受けられます。彼らは何かを見つめ、犇くように進んでおり、観覧者はその緊張感をも感じることができます。

前景の人々は、歌手や杖を持った者が先頭に配置され、暗い背景が彼らの存在感を引き立てています。背景は、灰色や黒で塗りつぶされることで、全体にアッチンサの神秘的な雰囲気を与えています。作品の表面は不均一で、ゴヤは特に前景に力強い筆使いを駆使しました。この作品には、通常の祭りの喜びは見られず、逆に暗雲の漂う不気味さや恐怖感が強く表れています。

また、過去に描かれた「サン・イシードロの牧場」とは大きく異なり、明るく賑やかな鼠を描いた前作とは対照的です。このような分断された視覚体験が、作品に一層の深みを与える要因となっています。

来歴

ゴヤは1823年にフランスに亡命し、キンタ・デル・ソルドの壁画はその後、彼の孫に譲渡されました。その後、何度かの転売を経て、1873年には銀行家によって保護と修復が施されることになりました。しかし、その過程で壁画は損傷を受け、数多くの絵具が失われてしまいました。

最終的に、1878年のパリ万国博覧会でこの作品が展示された後、スペイン政府に寄贈され、その後プラド美術館に所蔵されています。1889年からは常設展示され、多くの人々に愛され続けています。

『サン・イシードロへの巡礼』は、ゴヤの最も暗く、同時に魅力的な表現を体験できる作品であり、その神秘的な雰囲気はリーダーである彼の心情をも反映しています。

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