サン・ジミニャーノ歴史地区

サン・ジミニャーノ歴史地区：中世の塔がそびえる美しい街

サン・ジミニャーノ歴史地区は、イタリアのトスカーナ地方、フィレンツェから南へ約50kmに位置するコムーネ、サン・ジミニャーノにある中世の街並みを残す地区です。この地区は、その独特な景観と歴史的価値から、ユネスコの世界遺産（文化遺産）に登録されています。標高324mの丘の上に位置し、中世の貴族たちが競って建てた塔が林立する姿は、訪れる人々を魅了し続けています。

歴史

街の名前は、398年に没したモデナの司教、聖ジミニャーノに由来します。街の発展は、中世の主要な巡礼路であったフランチジェーナ街道の建設とともに始まりました。サン・ジミニャーノは、フランチジェーナ街道とピサーナ街道の合流地点に位置し、交通の要衝として栄えました。また、聖ジミニャーノの遺物である「指と指輪」が安置された聖堂への巡礼者も多く訪れ、街は繁栄を極めました。

1150年頃にはコムーネとして成立し、街には防衛のために塔が建設されていました。13世紀に入ると、街の繁栄とともに貴族たちが権力の象徴として塔を競い合うように建設し、最盛期には72もの塔が街にそびえ立っていました。これらの塔は、教皇派と皇帝派に分かれた貴族たちが、より高く美しい塔を建てようと競い合った結果です。当時、イタリアの他の都市でも防衛や監視のために塔の建設が行われていましたが、サン・ジミニャーノの塔群は特に有名です。

しかし、14世紀に入るとペストの流行や内部の権力争いによって街は衰退し、1353年にはフィレンツェ共和国に組み込まれます。その後、フィレンツェとシエナの前線基地とされた時期もありましたが、1555年にシエナがフィレンツェに降伏し、フランチジェーナ街道が使われなくなったことで、サン・ジミニャーノは交通の要衝としての役割を失い、衰退の一途を辿りました。

他の多くの都市では、不要になった塔が解体され、街の再開発が進められましたが、サン・ジミニャーノは経済的な余裕がなく、また戦争に巻き込まれることも少なかったため、13世紀から14世紀の街並みが奇跡的に保存されました。現在残っている塔の数は14基です。この街並みと城壁を含めた地区全体が世界遺産に登録されており、12世紀から14世紀頃に建設された建築物が数多く残っています。

世界遺産としての登録基準

サン・ジミニャーノ歴史地区は、以下の世界遺産登録基準を満たし、登録されました。

(1) 人類の創造的才能を表現する傑作: 中世の街並みと塔群は、人間の創造性と建築技術の傑作として評価されています。
(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠: 中世の都市構造と塔の建設は、当時の文化的伝統と文明を今に伝える貴重な証拠です。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例: 中世の都市の発展、塔の建設、都市景観は、当時の社会や文化を理解する上で重要な例です。

主な文化遺産

サン・ジミニャーノ歴史地区には、数多くの歴史的な建造物や美術品が存在します。以下にその代表的なものを紹介します。

サン・ジョバンニ門: 1262年に建造された中世の城塞の門です。石落としも現存しており、当時の防御施設を今に伝えます。サン・マッテオ門、クェルレチェッキーノ門、フォンティ門、サン・イアコポ門と合わせて全部で５つの門があります。
ドゥオーモ広場: 残っている7つの塔に囲まれた広場です。ドゥオーモに面しており、街の中心地として賑わっています。
ドゥオーモ: 1148年にローマ教皇エウゲニウス3世によって建立された教会です。シエナ学派の美術品が数多く所蔵されており、主聖堂と聖女フィーナの祭壇の二つの部分から構成されています。祭壇は15世紀に追加され、ジュリアーノ・ダ・マイアーノが設計しました。内部には、バルトロ・ディ・フレーディの『旧約聖書』、バルナ・ダ・シエナの『新約聖書より（キリストの生涯）』、ヤコポ・デッラ・クエルチャの木像『受胎告知』『大天使ガブリエル』、タッデーオ・ディ・バルトーロの天井画『最後の審判』、ベノッツォ・ゴッツォリの天井画『聖セバスティアーノの殉教』、ドメニコ・ギルランダイオの祭壇壁画『聖女フィーナに死の告知をする聖グレゴリウス』、『聖女フィーナの葬儀』などの美術品があります。
チステルナ広場: 13世紀に掘られた井戸を中心に広がる三角形の広場です。
市立美術館（ポポロ宮殿）: 1288年に建築され、1323年に増築された市庁舎です。現在残っている中で最も高い塔（54m）を持つ建物で、内部は美術館として公開されています。コッポ・ディ・マルコヴァルトの『ボルドーネの聖母』『十字架像』、ベノッツォ・ゴッツォリの『玉座の聖母子と諸聖人』、ピントゥリッキオの『聖母と聖人』、フィリッピーノ・リッピの『受胎告知』など、多くの絵画が収蔵されています。
サンタゴスティーノ教会: 13世紀に建築された教会です。ベネディット・ダ・マイアーノ作の大理石の祭壇、セバスティアーノ・マイナルディのフレスコ画『ニコラ』『ルチア』『ジミニャーノ』、ベノッツォ・ゴッツォリの『聖アウグスティヌスの生涯』などの美術品があります。
ロッカ: かつて街の城砦だった場所で、コジモ1世によって取り壊されましたが、後に再建され公園となっています。

交通

サン・ジミニャーノへは、シエナまたはフィレンツェからバスで約1時間です。また、フィレンツェから鉄道でポッジポンシへ行き、そこからバスで20分でもアクセスできます。

外部リンク

www.sangimignano.com - サン・ジミニャーノ公式サイト（英語、イタリア語）
www.sangimignano.net - サン・ジミニャーノ観光情報 バス時刻表、美術館、教会電話番号など

サン・ジミニャーノ歴史地区は、中世の街並みをそのまま残した、イタリアを代表する美しい観光地です。その独特な景観と歴史的価値は、訪れる人々を魅了し続けています。ぜひ一度、この歴史と文化が息づく街を訪れてみてください。

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