サーミ人

サーミ人：スカンジナビア半島の先住民族

はじめに

サーミ人は、スカンジナビア半島北部とロシア北部コラ半島に居住する先住民族です。古くは「ラップ人」と呼ばれていましたが、現在ではこの呼称は古語または蔑称とされ、彼ら自身は「サーミ」または「サーメ」と名乗っています。サーミ語を話すものの、フィンランド語、スウェーデン語、ノルウェー語、ロシア語など、複数の言語を操るマルチリンガルが多いのが特徴です。伝統的な手工芸技術、特に錫細工でも知られています。

生活様式と歴史

かつては狩猟と遊牧を主な生業としていましたが、現代では定住生活を送るサーミ人も多くいます。最も有名な生業は半遊牧のトナカイ放牧で、肉、毛皮、交通手段を提供しています。北欧諸国の一部地域では、伝統、環境、文化、政治的な理由から、トナカイ放牧は法的にサーミ人に限定されています。

サーミ人の歴史は古く、紀元1世紀の古代ローマの歴史家タキトゥスの『ゲルマーニア』には「フェンニー」という名で言及されています。しかし、このフェンニーが現在のサーミ人と同一かどうかは議論の余地があります。その後、13世紀以降、北欧諸国の成立と国境画定によってサーミ人は異なる国家の支配下に入るなど、複雑な歴史を歩んできました。

歴史を大きく3つの時期に分けると、

1251年から1550年: ノルウェー、ロシア、スウェーデンの三国間でラップランドの支配権をめぐる合意が成立し、サーミ人は分断されました。「ラップ税」と呼ばれる貢納が課せられていました。
1551年から1808年: 1751年の国境条約でラップランドの国境が明確化されましたが、サーミ人の権利は認められました。しかし、多くのサーミ人は定住化し、「ラップ税」は土地や水域の借用税へと変化。山岳、海岸、森林、河川、湖といった異なる生活様式を持つグループが形成されました。
* 1809年以降: フィンランドがロシア領となると、サーミ人の遊牧生活は圧迫を受けました。国境閉鎖や狩猟動物の乱獲によって「ラップ税」は廃止され、サーミ人の権利は縮小されました。第二次世界大戦後、スコルトサーミ人の土地が旧ソ連に割譲され、多くのスコルトサーミ人がフィンランドに移住しました。21世紀には、風力発電施設建設反対運動が展開されるなど、現代社会との摩擦も存在します。

社会と文化

サーミ人の社会組織は、シイーダと呼ばれる親族集団が中心でした。シイーダのリーダーは最年長の男性または女性が務め、日々の生活を決定していました。

サーミ文化の重要な要素として、独自の音楽であるヨイクがあります。ヨイクは無伴奏の即興歌で、シャーマニズムと深く関わっています。自然や人間を対象に歌われ、その表現方法は独特で、非サーミ人にとって理解が難しい側面もあります。近年では、若い世代を中心にヨイクの復興、そして現代音楽との融合といった試みも進められています。

伝統的な手工芸品であるドゥオッチもサーミ文化を象徴するものです。トナカイの角、毛皮、木などを使い、実用的な日用品が作られています。銀細工も、富の象徴として好まれています。

サーミ人の宗教は、自然に宿る精霊を信仰する精霊信仰でした。シャーマンであるノアイデが重要な役割を果たしていましたが、16世紀以降のキリスト教の布教によって弾圧を受けました。現在では、多くのサーミ人がキリスト教徒です。

遺伝子

サーミ人はコーカソイドに分類されますが、モンゴロイド系のハプログループN (Y染色体) を中頻度で持ちます。これは、サーミ人の歴史と遺伝的多様性を示しています。

現代のサーミ人

現代では、サーミ人は自らの権利と文化の保全のために、サーミ議会など様々な組織を設立し活動しています。しかし、土地や資源をめぐる紛争、伝統的な生活様式と近代社会の調和といった課題も依然として存在しています。サーミ人の歴史と文化は、現代社会においても重要な意味を持ち続けています。

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