ザカフカース民主連邦共和国

ザカフカース民主連邦共和国は、1918年 4月22日から5月26日のごく短期間、南カフカースに存在した連邦国家です。現在のジョージア、アルメニア、アゼルバイジャンの領域にまたがり、ロシア革命後の混乱期に、各民族の思惑が複雑に絡み合いながら誕生し、そして短期間で解体されました。

歴史的背景

ロシア帝国時代、南カフカース地域は帝国の支配下にあり、ティフリス（現在のトビリシ）に置かれたカフカース総督府によって統治されていました。しかし、1917年の二月革命によって帝政が崩壊すると、その権限は超党派のザカフカース特別委員会（ОЗАКОМ）へと移行しました。この委員会は、ロシア臨時政府の意向に従って第一次世界大戦を継続する姿勢を示しましたが、十月革命によってボリシェヴィキが権力を掌握すると、事態は大きく変化します。

ロシア軍の兵士たちが故郷へ帰還し始めると、オスマン帝国との戦線は劣勢に傾き、ザカフカース地域は新たな政治的枠組みを模索せざるを得なくなりました。1917年11月には、ザカフカース委員部が発足し、グルジア人メンシェヴィキのゲゲチコリを議長とする12名で構成されました。さらに、1918年2月には立法機関としてザカフカース議会（セイム）が設置され、政治的な動きが活発化しました。

しかし、1918年3月3日に締結されたブレスト＝リトフスク条約において、ソビエト政府がザカフカース委員部に諮ることなく、カルス州とバトゥーム州をオスマン帝国に割譲したことは、この地域に大きな衝撃を与え、独立への動きを加速させる要因となりました。

建国と崩壊

このような状況下で、ザカフカース議会は、1918年 4月22日にロシアからの分離を宣言し、ザカフカース民主連邦共和国の建国を宣言しました。共和国の最高機関はザカフカース議会であり、ニコライ・チヘイゼが議長を務めました。しかし、連邦内では民族間の意見の相違が表面化しました。アルメニアとグルジアはドイツに接近しようとする一方、アゼルバイジャンはトルコとの関係を重視するなど、各民族が異なる外交路線を追求したため、連邦としてのまとまりを維持することが困難になりました。

共和国政府はブレスト＝リトフスク条約を認めませんでしたが、軍事力を欠いていたため、5月11日から26日にかけてバトゥーミでドイツ・トルコ軍司令部と交渉せざるを得ませんでした。しかし、この交渉の中で民族間の対立がさらに深刻化し、連邦制の維持は不可能であると判断されました。最終的に、各民族の国民会議は独立国家の樹立を支持し、ドイツ・トルコ側も連邦共和国の解体を容認したため、わずか2ヶ月足らずで連邦共和国は解体することになりました。

1918年5月26日、ザカフカース議会は連邦共和国の廃止を決定し、同日にはグルジア民主共和国が、翌27日にはアゼルバイジャン民主共和国が、28日にはアルメニア共和国がそれぞれ独立を宣言しました。この結果、南カフカースは三つの独立国家へと分裂し、この地域における新たな政治的時代が幕を開けました。

ザカフカース議会

ザカフカース議会は、ザカフカースのロシアからの離脱を法的に進めるために設置されました。議会は、ザカフカースから制憲議会に選出された代議員、アゼルバイジャンのミュサヴァト党、アルメニアのダシナク党、グルジアのメンシェヴィキといった各政党の代表から構成されました。ニコライ・チヘイゼが議会議長を務め、議会はザカフカースのロシアからの離脱を可決し、ザカフカース民主連邦共和国を宣言しました。しかし、連邦共和国の解体とともに、議会も解散することになりました。

その後

ザカフカース民主連邦共和国の解体後、この地域はソビエト連邦の支配下に入り、1922年にはザカフカース社会主義連邦ソビエト共和国として再編されました。その後、1991年のソ連崩壊を経て、再び独立国家としてそれぞれの道を歩むことになります。

参考文献

木村英亮『ロシア現代史と中央アジア』有信堂高文社、1999年。ISBN 4-8420-7508-2
伊藤順二著、山室信一、岡田暁生、小関隆、藤原辰史編『帝国ソ連の成立南コーカサスにおけるロシア帝国の崩壊と再統合』《現代の起点第一次世界大戦第4巻遺産》岩波書店、2014年。ISBN 978-4-00-028714-2

ザカフカース民主連邦共和国