ザクセン選帝侯フリードリヒ3世の肖像

ザクセン選帝侯フリードリヒ3世の肖像

アルブレヒト・デューラーが1496年に制作した『ザクセン選帝侯フリードリヒ3世の肖像』は、ドイツ・ルネサンス期の肖像画の傑作として知られています。この作品は、麻布にテンペラで描かれたもので、現在はベルリン絵画館に所蔵されています。デューラーがザクセン選帝侯フリードリヒ3世から最初に依頼された作品であり、デューラーとフリードリヒ3世との重要な関係を示す作品としても注目されています。

歴史的背景

デューラーがこの肖像画を制作したのは、1496年4月にフリードリヒ3世がニュルンベルクに滞在していた時期とされています。デューラーは、この滞在中に選帝侯と親交を深め、肖像画の制作に至ったと考えられています。フリードリヒ3世は、デューラーにとって重要なパトロンとなり、後に『七つの悲しみの多翼祭壇画』や『ドレスデン祭壇画』など、多くの祭壇画を注文しています。また、デューラーは1524年には銅版画で選帝侯の肖像を再び描いています。

制作技法

この肖像画は、目の細かい麻布に地塗りを行わず、水溶性のテンペラ絵具で直接描くという、当時としては珍しい技法である「布絵」で制作されています。この技法は、地塗りした麻布に油彩で描くよりも安価であり、絵画を巻いて輸送できるため、16世紀のドイツでは板絵の代用品として普及していました。しかし、耐久性が低いため、現存する作品は少ないのが現状です。デューラーによる布絵は、本作を含めて14点ほどが知られていますが、そのうち3点は要人をモデルにした肖像画です。

本作には、多くの部分で描き直しや変更が加えられており、短時間で、おそらくフリードリヒ3世の滞在中に仕上げられたと考えられます。この事実は、デューラーが制作期間の制約の中で、高度な技術を発揮したことを示しています。

作品解説

デューラーは、フリードリヒ3世を濃い緑色の背景の中に、4分の3正面からの胸像として描いています。フリードリヒ3世は右を向き、腕を置いている欄干や巻紙を持っている手など、初期フランドル派の影響が見られます。この構図は、当時の肖像画の典型的な要素を取り入れています。

フリードリヒ3世は、神聖ローマ帝国軍の指揮官などの要職を歴任し、帝国改革に尽力した人物です。また、ヴィッテンベルク大学を創設し、フィリップ・メランヒトンなどの人文主義者を集め、ルーカス・クラナッハを宮廷画家として迎え入れたことでも知られています。特に、マルティン・ルターを庇護したことは、宗教改革における重要な出来事として歴史に刻まれています。これらの功績から、フリードリヒ3世は「賢公」と呼ばれています。

肖像画におけるフリードリヒ3世の姿は、大きなベレー帽と断固とした視線によって、その頑固な性格と地位が強調されています。デューラーは、人物の内面までをも描き出すことに成功しています。

この肖像画は、デューラーの初期の肖像画として、またフリードリヒ3世という歴史的に重要な人物を描いた作品として、美術史において非常に重要な位置を占めています。

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