ザビーネ・マイヤー

ザビーネ・マイヤー（Sabine Meyer）は、1959年3月30日に旧西ドイツ、バーデン＝ヴュルテンベルク州クライルスハイムに生まれた、ドイツを代表するクラリネット奏者です。彼女の兄であるヴォルフガング・マイヤーもまた著名なクラリネット奏者として知られています。

マイヤーは幼い頃から、自身もクラリネット奏者であった父親の手ほどきを受けて音楽の道を歩み始めました。基礎教育を終えた後、シュトゥットガルト音楽院に進み、専門的な音楽教育を受けました。1979年にはボンのドイツ音楽コンクールで第2位に入賞し、その才能が認められます。その後、バイエルン放送交響楽団にクラリネット奏者として入団し、プロとしてのキャリアをスタートさせました。

彼女のキャリアにおいて、特に注目を集めたのが、1981年1月に行われたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団（BPh）の首席クラリネット奏者オーディションです。当時、カール・ライスターに次ぐもう一人の首席奏者のポストが空席となっており、その選考が行われていました。指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンはマイヤーの演奏に強い関心を示し、彼女を首席奏者に推しましたが、楽団員の意見は異なりました。楽団員たちは、マイヤーの音色について、オーケストラの管楽器セクションに必要な「厚みと融合性」が不足していると評価しました。

この意見の相違により、マイヤーの仮採用（1年間）に関する楽員投票がスムーズに行われない状況が生じました。そうした中、カラヤンの指名により、マイヤーは客員首席クラリネット奏者として、ライスターが不参加だったベルリン・フィルのアメリカ公演に参加します。しかし、翌1982年晩秋に行われた楽団員全員による投票の結果、マイヤーの仮採用は否決されました。

このベルリン・フィルへの入団を巡る一連の出来事は、当時の音楽界で大きな話題となり、一部では「ベルリン・フィル入団騒動」として報じられることとなりました。結果的にマイヤーはベルリン・フィルに入団することはできませんでしたが、この出来事はかえって彼女の知名度を世界的に高めることにつながりました。

その後、ザビーネ・マイヤーは特定のオーケストラに所属することなく、ソリストおよび室内楽奏者として、世界を股にかけて活躍する道を選びました。彼女は世界の100か所以上を訪れ、数多くの主要なオーケストラと共演を果たしています。協奏曲や室内楽曲の分野で精力的に演奏活動を行い、多くの録音も発表しています。特に、モーツァルトやウェーバーといった作曲家のクラリネット作品の解釈は高く評価されており、これらのレパートリーにおける第一人者と目されています。

現代クラリネット界を牽引する存在となったマイヤーは、教育者としても後進の指導にあたっています。1993年からは、リューベック高等音楽院の教授として、若い音楽家たちの育成に貢献しています。

ザビーネ・マイヤーは、その卓越した技術と豊かな音楽性、そしてベルリン・フィル入団を巡る経緯によって、クラシック音楽界において確固たる地位を築きました。現在も世界各地で精力的な活動を続け、多くの聴衆を魅了しています。彼女の演奏は、クラリネットという楽器の表現力の可能性を広げ続けています。

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