ザンジバル保護国

ザンジバル保護国



ザンジバル保護国英語: Zanzibar Protectorate)は、1890年から1963年までの約70年間、東アフリカ沖のザンジバル島とその周辺地域に確立されていたイギリスの保護領です。この期間、ザンジバルはイギリスの支配下に置かれましたが、旧来のザンジバル・ブーサイード朝のスルターンが名目上の元首として存続し、形式的には一定の独立性が保たれていました。この保護国の歴史は、その後のザンジバル王国を経て、タンザニア連合共和国の一部となるまでの重要な過渡期にあたります。

この保護国が誕生したのは1890年、イギリスとドイツの間で結ばれたヘルゴランド=ザンジバル条約によって、イギリスがザンジバルに対する排他的な影響力を認められたことに端を発します。条約発効後、イギリスはザンジバルスルターン国を保護国としました。翌1891年には保護国政府が樹立され、ロイド・マシューズが初代首相に就任しました。

保護国化以降、ザンジバルでは新たな制度が導入されました。1892年2月には、最初の新聞「Gazette for Zanzibar and East Africa」が英語で刊行を開始。これは紙名を変更しながら1964年まで発行が続けられ、さらにアラビア語スワヒリ語ウルドゥー語による新聞も発行されるようになりました。1895年にはザンジバル初の切手が発行されるなど、近代国家としての体裁が整えられていきました。

同時期、ザンジバルがアフリカ大陸沿岸部に有していた10マイル幅の領土の扱いが問題となりました。イギリスはザンジバル領としての地位を確認しましたが、この沿岸部は帝国イギリス東アフリカ会社に租借され、後にイギリス領東アフリカ、そして現在のケニアの一部を形成することになります。スルターンはこの租借に対し、年間11,000ポンドの租借料(ドイツからの租借料利子を含むとさらに増額)を受け取りました。また、1895年にはケニア沿岸で発生したマズルイの乱に対し、ザンジバルからも160人の兵士が派遣されています。

保護国初期には、スルターンの継承を巡る混乱も発生しました。1893年にアリー・ビン・サイード・スルターンが後継者不在のまま崩御すると、イギリスはハマド・ビン・スワイニーを後継者に擁立しました。しかし1896年8月、ハマドの死後、ハーリド・ビン・バルガッシュが即位を宣言。これに対しイギリスが軍事介入し、わずか数十時間で終結したイギリス・ザンジバル戦争を経て、ハーリドは追放され、イギリスの支持するハムード・ビン・ムハンマドが新たなスルターンとなりました。ハムードの治世下、1897年4月5日には奴隷制度および奴隷貿易が正式に廃止されるという歴史的な改革が断行されました。

ハムード・ビン・ムハンマドの死後は、その子アリー・ビン・ハムードがスルターンとなりますが病弱であり、1911年にいとこのハリーファ・ビン・ハルーフに譲位しました。ハリーファ・ビン・ハルーフは1913年に保護国議会を設立し、統治機構の近代化を進めました。この年には、ザンジバル保護国の管轄がイギリス外務省から植民地省へと移管されています。

第一次世界大戦の影響は比較的軽微でしたが、第二次世界大戦中は物資不足に悩まされることとなりました。また、1920年にはイギリス領東アフリカの内陸部がケニア植民地として直轄支配下に置かれる一方、ザンジバルが主権を持つ沿岸部10マイルの地域は「ケニア保護国」としてケニア植民地の行政管轄下に置かれるという、複雑な二重構造が成立しました。この沿岸部の地位はケニア独立まで維持されます。

第二次世界大戦後、世界的な脱植民地化の流れの中で、ザンジバルでも現地住民の政治参加が進みました。政党が結成され、1957年には選挙が実施されました。主な政党には、黒人を基盤とするアフロ・シラジ党と、アラブ人を基盤とするザンジバル国民党があり、両党は独立に向けた主導権を争いました。この対立は、制憲議会選挙後に人種暴動を引き起こす一因ともなりました。

独立に向けた動きが加速する中、1960年にハリーファ・ビン・ハルーフが没し、アブドゥッラー・ビン・ハリーファがスルターンに即位。新政府樹立の準備が進められ、1963年6月には自治政府が発足しました。同年7月、アブドゥッラーが死去し、息子のジャムシード・ビン・アブドゥッラーが最後のスルターンとなります。

独立直前、ザンジバルは大陸側の領土に関する権限を放棄しました。1963年10月8日、ケニアへの沿岸部主権の譲渡が行われました。そして1963年12月10日ザンジバル保護国は終焉を迎え、ザンジバル王国として独立を果たしました。この独立から間もない1964年1月にはザンジバル革命が発生し、スルターン体制は崩壊、ザンジバルは新たな時代を迎えることになります。

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